親が世界平和統一家庭連合(家庭連合、旧統一教会)の熱心な信者だった場合、その子供たちは悲惨な境遇にあるというイメージが社会に強まっている。教団の地方の教会長だった父親を持つ離教2世の女性、小川さゆりさん(仮名)の体験談などが、マスコミに大きく取り上げられる一方、自らの意思で信仰を選択した2世が存在することは無視されてきた。
「私が教会に残るか離教するかを決定付けたのは、まさに親子関係だった」
そう語るのは千葉県在住の30代女性、大下美恵子さん(仮名)だ。子供の頃は群馬県に住んでおり、教会長の父親は単身赴任で、自宅に帰るのは1~2カ月に1回というほど多忙だった。それでも報酬は少なく、母親が一家の生活を支えていた。着たい服も買ってもらえず、家具も不用品をもらって使っていた。女手一つで家族を養っていた母親は時々ヒステリックに怒ることもあったという。
「小学校まではその生活が当たり前だったが、さすがに思春期になると学校の友人たちの家と見比べてみて、自分の家庭の特殊さに気付くようになった」と大下さんは苦笑する。
家の中にホッとする空間がないことに居心地の悪さを感じた大下さんは、次第に部活や学校の友人たちとの交遊に没頭。帰宅時間も遅くなり、時には夜中に抜け出したこともあったため、両親から心配された。だが、「遅くまで遊ぶことの何が悪いのか」と納得できなかった。
教団の教義として将来の結婚に備え、男女ともに異性関係を「清く保つ」ことが求められていたが、禁欲的な指導に「自由がない」と反発心が湧いた。家庭内では「親に暴言も吐いていたし、目の前で料理を捨てたこともあった」など、衝突が絶えなかったという。
鬱屈(うっくつ)した感情のやりどころも分からないまま、高校卒業後は「2世をやめて家出しよう」と計画。かばんにお気に入りの服をまとめ、友人たちには家庭の信仰を告白して「助けてほしい」とも話していた。
転機が訪れたのは卒業直前だった。下宿先の姉と電話で話していた際、姉もまた高校生のころ親や信仰について悩み、ストレスで言葉が出なくなって自殺を考えたこともあったと告げた。
思わず大下さんが自分の思いを打ち明けると、姉も昔は2世をやめようと思っていたと話した上で、「私に『親が人生を費やしてきた信仰をどういうものか知りもせず、否定するのはどうか』と言った。それでちゃんと教会について学んだ上で選択しようと思った」と振り返る。
教義を学ぶ研修会に参加する中で、大下さんは両親と旧知の講師と話す場を持ち、両親の昔の様子を聞かせてもらったりもした。第三者の観点で両親の人生を聞きながら、次第に「自分は両親から愛されたくて、寂しさゆえに反発してきた」という隠れた本音に気付かされた。
その後、両親と話し合う機会を持った大下さんは、思いのすべてを伝えると、両親は「本当にごめん」と謝罪。心が不安定な時期もあったが、そのたびごとに両親に思いのうちを受け止められた。「私だけでなく両親も変化し、成長していた」と笑みを浮かべる。
メディアに出演する離教2世たちについて、大下さんは「気持ちが伴わず、信仰を強いられている2世もいるだろう。それは当然の怒りだ」と理解を示す。一方でこう意見を述べる。
「自分を育ててくれた親を恨むのは苦しい。だから、親より教会を疑問視した経験は私にもある。もしかしたら、親子問題を政治や宗教の問題にすり替えたい思いがあるのかもしれない。そういった複雑な感情に配慮すべきではないか」
(信教の自由取材班)