長年の課題だったデフレ経済からの脱却も目前。金融も「金利ある世界」へと正常化の歩みを始めた。賃上げから経済の好循環が望める状況になった。
そんな中での今回の総裁選。新総裁から次の首相となるリーダーは、どういうビジョンで日本経済を次のステージへ牽引(けんいん)しようとするのか。
一見順調そうな日本経済だが、抱える課題も少なくない。少子高齢化の著しい進行で人口が減少する時代になり、活力の維持へ一段の生産性向上と、雇用のミスマッチ防止など労働力の流動化促進が求められるようになった。社会保障など諸制度も時代に対応した変革が求められている。
また人口減少に関わりなく、厳しい安全保障環境の下、防衛力強化だけでなく食料やエネルギーも含めた経済安全保障、被災地の復旧・復興を含む国土強靭(きょうじん)化の取り組みも欠かせない。
新しい首相となる新総裁の果たすべき課題である。
9人の各候補とも、公表した所見あるいは会見などで表明した内容から、成長力強化という点では、さすがに政権与党であるだけにほぼ一致する。異なるのは、重きをどこに置くかの相違である。
この点で、象徴的なのは「日本列島を、強く豊かに」のスローガンを掲げる高市早苗経済安保相だ。「総合的な国力」すなわち外交力、防衛力、経済力、技術力、情報力、人材力のすべてを強くするためには「何よりも経済成長が必須」と強調する。
高市氏は経済成長を前面に打ち出し、そのために大胆な「危機管理投資」と「成長投資」を訴える。さまざまなリスクを最小化し、先端技術を開花させるのに積極的な財政出動をいとわない。
「日本経済を上昇気流へ」として供給力の抜本的強化を唱える小林鷹之前経済安保相や、「所得の倍増と国内投資の促進による経済成長」を説く加藤勝信元官房長官(元厚生労働相)も高市氏と似た考え方か。
日本経済のダイナミズムを取り戻すため「聖域なき規制改革」を訴えるのが、新総裁の有力候補の一人と見られる小泉進次郎元環境相。具体的には、菅義偉前首相らと積極的に取り組む「ライドシェア」(一般ドライバーによる乗客の有償送迎)の完全解禁や解雇規制の見直しなどを1年以内に実現すると訴える。
もっとも、解雇規制見直しでは、「企業がクビにしやすくなる」など労働者の雇用不安を招きかねないとの批判が相次ぎ、13日の共同会見でも論点になった。同氏はその後、「緩和ではなく、自由化でもない。昭和の働くルールを令和の時代に合わせる」などとトーンダウンさせている。
小泉氏とは別の視点で労働市場改革を訴えるのは、河野太郎デジタル相だ。同氏は解雇の金銭補償ルールの明確化などを求める。規制改革の断行を強調するのは小泉氏と同様だ。
各候補とも当面の対策として、物価高対策や賃上げ、そのための環境整備などに取り組むとしており、大きな争点になってはいないが、例えば、物価高対策としてガソリンや再開した電気・ガス代の補助を今後どうするか判断を迫られよう。
日本経済は今好調で、実質賃金も前年比プラスになってきた。近視眼的な財政健全化から消費税増税を実施し経済の低迷を招いた橋本龍太郎政権や第2次安倍晋三政権の失敗は避けたい。安易な増税は禁物である。
岸田文雄現政権を支えた茂木敏充幹事長の「経済成長で『増税ゼロ』の政策推進」は〝変節〟を批判されたが、改めるに越したことはない。 (自民党総裁選取材班)