【連載】自民党総裁選 乱戦下の焦点② 岸田外交継承も対中で温度差

石破氏はアジア版NATO提唱

日伊共同訓練「ライジング・サン24」で警備するイタリア兵=8月7日、青森県の三沢基地(森啓造撮影)

総裁選告示日の12日、ロシア軍の哨戒機が日本列島を一周するように飛来。北朝鮮は日本海に弾道ミサイルを発射した。防衛省統合幕僚監部が同日、SNSで「日本海、東シナ海、太平洋及びオホーツク海において領空侵犯のおそれがあった」と明らかにしている通り、安全保障環境の厳しさは増している。有事を見据えた外交、安全保障をどうするか、次期総裁に重くのしかかる課題だ。

自民党の結党以来の党是の一つに憲法改正が掲げられている。自民党改憲4項目のうち、「自衛隊の明記」と「緊急事態条項」は日本の安全保障に関わるものだ。

岸田文雄首相は任期中の改憲発議を目指した。党本部で2日開かれた憲法改正実現本部では、改正に向けた論点整理がまとめられた。退陣を目前にし、党内の改憲議論に道筋を付け、改憲発議は新総裁に引き継がれることになる。

自民党公式ホームページの「所見」では、9人全員が「憲法改正」を明記している。13日の候補者共同記者会見で小泉進次郎元環境相は、「憲法論議の推進に全身全霊で臨み、憲法改正発議の環境が整えば、直ちに発議の後、国民投票に移る」と主張。高市早苗経済安保担当相は9日の記者会見で、「少しでも早く国民投票できる環境をつくる」と訴えた。戦力不保持をうたった9条2項削除と自衛隊の「国防軍」改編を持論とする石破茂元幹事長は、10日の記者会見で、「党で決めた路線を維持していく」と足並みをそろえた。

外交・安全保障政策では岸田首相を評価する声が相次ぎ、ほとんどの候補が岸田路線を引き継ぐとしている。日米同盟の強化と韓国とのシャトル外交を継続しながら、北朝鮮の拉致監禁問題に全力を尽くすという点で一致している。

ただ、外交・安全保障の各論では個人差がある。高市氏と小林鷹之前経済安保相は、安倍晋三元首相の「自由で開かれたインド太平洋」構想の継承を強く訴えている。小林氏は、出演したラジオ番組で総理には陸・海・空の自衛隊の最高指揮官としての覚悟が問われているとした上で、「日米同盟を基軸とした抑止力をどう拡大していくのか、同志国などと連携して、抑止力と対処力を同時に対処していく必要がある」と述べた。加藤勝信元官房長官も安倍氏の保守路線の継承者だ。

石破氏は13日の会見で、「東アジアにNATOのような仕組みはない。アジア地域に集団安全保障の仕組みを作ることは喫緊の課題だ」と述べた。翌日の日本記者クラブ主催の候補者討論会で「アジア版NATO」の創設の実現可能性について茂木敏充幹事長から問われた石破氏は、「理論的には可能で、環境が似た国同士からまず始める。中国を最初から排除することを念頭に置いているわけではない」と持論を述べた。

林芳正官房長官は、「アジアと欧州は発展段階も違い、いろいろな歴史問題もある。当面は米国を中心とした仕組みが現実的だ」と述べ、「アジア版NATO」に批判的な見方を示した。一方で、「媚中(びちゅう)派」と言われることについて、「私は『知中派』。中国を知っていると思っている。中国と向き合っていくために、中国を知っていることは一つのポイントではないか」と自身の出馬会見で強調した。

イスラエルとパレスチナの軍事衝突がエスカレートしていることも懸念事項だ。パレスチナのステータスについて議論が分かれる。先進7カ国(G7)は米国に追従し、国家承認をしていない。討論会で、河野太郎デジタル相は、国家承認すべきだと主張した一方で、上川陽子外相は、「直ちに国家承認するかは、しっかり検討しないといけない」と慎重な姿勢を示した。(自民党総裁選取材班)

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