【連載】自民党総裁選 乱戦下の焦点① 「脱」も変わらぬ派閥頼み

党刷新・裏金問題 不記載額の返納で割れる

巨大な総裁選PRポスターが掲げられている自由民主党 本部ビル=東京都千代田区(デビッド・チャン撮影)
岸田文雄首相(自民党総裁)の後継を選ぶ党総裁選が12日に告示され、27日に投開票が行われる。派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件で失った支持を取り戻せるのか。また、日本の次のリーダーを担うのは誰になるのか。派閥の締め付けが緩み、過去最多9人の候補者が乱立する選挙戦を焦点別に分析する。(自民党総裁選取材班)

12日の所見発表演説会では多くの候補が「政治とカネ」を巡るスキャンダルについてお詫(わ)びし、信頼回復に全力を挙げることを約束した。

岸田首相は8月14日、退任表明の記者会見で「自民党が変わることを示す最も分かりやすい最初の一歩は私が身を引くことだ」と述べ、自身の退陣が党改革につながると判断した。

今回の総裁選は、党が改革・刷新できるかをアピールし、失った信頼を取り戻せるかが焦点になる。

総裁選の行方はこれまで派閥の意向で決まっていたと言えるが、今回は事情が異なる。派閥裏金事件により、ほとんどの派閥は解消を決断した。すでに解散している派閥もあり、派閥単位で候補を擁立する動きがなかった分だけ、展開が見えづらい混戦模様となっている。

立候補を届け出る条件は、20人の推薦人を確保することだが、立候補者が増えれば増えるほど、その確保は難しくなる。政治評論家の田村重信氏は、「事実上、派閥の後ろ盾がなければ総裁に立候補することは難しい」と話す。

9人が立候補したことで、総裁選の国会議員票367票のうち、候補を含む189票はほぼ固まった状況にある。一方で、残りの票が特定の候補に集まることは考えにくい。

各候補の推薦人を見ると、多くの候補に特定派閥から集中していることが分かる。派閥解消の掛け声や動きはあれど、実際にはいまだ派閥の論理が機能している。

各種世論調査で高い支持を集める小泉進次郎元環境相は無派閥ながら、キングメーカーとされる菅義偉前首相が後押ししている。世論調査では石破茂元幹事長とトップを争っている。

小泉、石破両氏を追うのは高市早苗経済安保担当相だ。旧安倍派議員が推薦人の14人を占める。全国の党員・党友による支持率は高く、保守本流の流れをくむ候補として期待が大きい。

小泉、石破両陣営はもう一人のキングメーカー、麻生太郎副総裁の動向に気をもんでいる。麻生氏は、岸田首相、茂木敏充幹事長と共に「三頭政治」をまとめた自負心があり、首相が決断した派閥解散に異論を唱え、存続させている。麻生氏は、河野太郎デジタル相への支援を表明する一方で、他候補の支援も容認した。

麻生派は石破氏と林芳正官房長官を除く7候補に推薦人を出した。推薦人の「貸し借り」を通して、決選投票を見据えて協力できる陣営を増やしたとの分析もある。上位2人による決選投票になることが確実視される中、麻生氏がどう動くか注目される。

党の刷新・出直しが求められている中、裏金問題の扱いとそれに携わった議員をどう処遇するかを巡って、候補者の間で意見が分かれている。

河野氏は8月26日の出馬会見で、政治資金収支報告書の不記載収入があった議員には不記載分を返納するよう求めた。他の候補や該当する議員らから「党紀委員会で決めたことをひっくり返せない」「どこに返還するのか」など否定的な意見が相次いでいる。

政党が議員に支出する政治資金のうち公開義務がなく、領収書が要らない政策活動費をどうするかも争点の一つだ。6月に成立した改正政治資金規正法では、10年後の公開が盛り込まれたが、具体的な公開方法などは先送りされた。総裁選では、原則公開、10年後の区切りを付けない、政策活動費を廃止するなど、多様な意見が出ている。

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