平出和也さん、中島健郎さん救助ならず
シスパーレ 4度の挑戦で登頂
アルパインクライマーで山岳写真家の平出和也さんと中島健郎さんが、パキスタン北部のカラコルム山脈にあるK2(8611㍍)で西側の未登壁を登攀(とうはん)中、7月27日に滑落(かつらく)し、帰らぬ人となった。多くの人たちから敬愛されて、惜しまれる。
標高7000㍍の地点でヘリコプターから2人の姿が確認されたが、空からも地上からも近づけないために救助が打ち切られたという。
平出さんも中島さんも世界のトップクライマーとして注目されていた。2人とも映像カメラマンとしての仕事も立派で、平出さんは2013年、三浦雄一郎氏のエベレスト登頂を記録し、中島さんは2012年以降、日本テレビ「世界の果てまでイッテQ!」登山部シリーズに参加していた。
先回の冬期、「冬を遊ぼう」(石井スポーツARTSPORTS)という冊子で、2人に司会の萩原浩司さんを加えて、3人でトークしている記事が掲載されていた。登山の喜びと夢について語ったもので、平出さんは「自分たちの登山を喜んでくれる人がいて、それが自分の存在価値になる」と、支えてくれている力のことを語っていた。
2人のコンビは2016年9月ルンポ・カンリ(7095㍍、中国チベット自治区)新ルート北壁登頂、2017年8月シスパーレ(7611㍍、パキスタン)新ルート北東壁登頂、2019年7月ラカポシ(7788㍍、パキスタン)新ルート南壁登頂など、輝かしい記録を残してきた。
シスパーレとラカポシの登攀では優れた登山家に授与されるフランスのピオレドール賞を受賞。
シスパーレは平出さんにとっては4度目の挑戦で、中島さんと組んで初めて登頂を成功させたのだ。この記録は2018年2月、NHKBS1で「銀嶺の空白地帯に挑む~カラコルム・シスパーレ~」として放映された。
2人とも山岳カメラマンなので、カメラを頭にセットして互いに撮影して記録を残した。登攀は困難を極め、トップを行く中島さんがスリップして5㍍滑落する場面まで撮影されていた。
気温はマイナス20度近くで、6日間で消費した食料は12食、1日2食だった。湯をかけるだけの雑炊だ。狭いテント場に落雪があったり、極限の状況にいるのにかすかなゆとりさえ感じさせた。
平出さんの著書『What’sNext?』(山と渓谷社)によると、この4度の挑戦でザイルを結んだパートナーには、東海大学の後輩で2006年に日本人女性初のK2登頂者となった小松由佳さんや、明治大学山岳部OBの三戸呂拓也さん、2008年カメット(7765㍍、インド)新ルート南東壁の登頂でともにピオレドール賞を受賞した谷口けいさんがいた。
中島さんの登場でやっと成功させたのだ。その卓越した力量が分かる。その後小松さんは登山から離れ、谷口さんは北海道の山で遭難死する。
2人は2018年にK2西壁の偵察をして、今回の登頂に挑んだ。平出さんのこの著書を開くと、初めにカラー写真がいくつも掲載されている。過去に登ったヒマラヤの山々だ。そして最後に登場するのがK2。「その西壁はいまだ空白地帯だ」と記されている。
本のタイトルは「さて、次の山は?」という意味だが、この次の山で2人は人生の幕を閉じた。
(増子耕一)