民間のテレビとラジオ各社が加盟する日本民間放送連盟(民放連)は各社が「番組基準」を策定する際の参考として、共通のルール「放送基準」をまとめている。放送によって傷ついたり不快な思いをする聴視者が出ないようにするためだ。
そこでは「報道の責任」として次のように定める。「取材・編集にあたっては、一方に偏るなど、視聴者に誤解を与えないように注意する」。「宗教」の項目では「宗教の教義、儀式にかかわる事物を取り扱う場合は、その宗教の尊厳を傷つけないように注意する。宗教とは直接的な関係がない場合でそれらを用いる場合は特に注意する」としている。
民放連に加盟するTBSの「報道特集」(2022年8月27日放送)は世界平和統一家庭連合(家庭連合=旧統一教会)の宗教儀式「合同祝福結婚式」に30年ほど前に参加し、その後脱会・離婚したという元信者(女性)5人へのインタビュー内容を放送した。
韓国人と結婚した女性たちは、地方の農家に嫁いで貧困生活を強いられたり、夫の暴力に苦しめられたりするなど、過酷な体験をカメラの前で語った。嘘(うそ)を言っているようには見えなく、視聴者の同情を誘うものだった。
宗教団体の問題点を探るとき、元信者から話を聞くのは当然のことだ。理不尽なことがあれば、それを視聴者に知らせることも意義あることだ。しかし、そこには注意が必要だ。
信仰を持つのは、教団の教えに救いや心の安らぎを感じるからだが、脱会すると、入会していた教団を否定するため、信者時代に体験した「負」の部分を実際より誇張して告発することが珍しくない。脱会者、特に反教団活動を行う元信者の話は、この点を留意して聞く必要がある。
しかも、家庭連合の信者で「全国拉致監禁・強制改宗被害者の会」代表の後藤徹氏によると、出演した5人の中に、後藤氏を12年5カ月にわたって監禁して棄教を迫った家族らの一人、兄嫁が含まれていた。このため、同氏は「異常な人権侵害」を行った人物を出演させ、一方的な批判をさせているとして、TBSに抗議文を送っている。
ところが、キャスターの一人、膳場貴子氏は元信者たちの話を前提に「教団はカルト的な思考回路によって信者が辛(つら)さを感じない状態にした上で、見知らぬ人との結婚で心身ともにリスクを負わせる」と、いわゆる「マインドコントロール」理論を持ち出し祝福結婚式を非難。そればかりか、「合同結婚式は、この教団の人権侵害の最たるものだなと思った」と断罪した。
家庭連合のウェブサイトによれば、祝福結婚式は「全世界から集まった男女が、宗教・宗派、思想、民族や国境の壁を越え、神様を中心とした家庭を築くために神様を中心とした結婚式を執り行うもの」だという。
元信者の彼女たちと同じように、この宗教儀式に参加、韓国人男性と家庭を築いている日本人女性は韓国に数千人存在するという。そのことは番組も触れた。しかし、中立公正の観点からは、幸せな家庭を築いている信者の姿も紹介すべきだったろう。家庭連合広報局によると、「報道特集」から祝福結婚式に関する取材はなかった。
祝福結婚式に参加した信者が築いた家庭は日本にも多い。膳場氏の発言は宗教儀式の尊厳を傷つけることを戒めた放送基準を逸脱するばかりか、祝福結婚式参加者と、そこに生まれた子供の心を傷つけるものだ。教団による人権侵害を批判しながら、信者の人権を侵害するのはダブルスタンダード(二重基準)であり、家庭連合を巡る偏向報道の代表的な事例と言える。
(信教の自由取材班)