【連載】脅かされる信教の自由㉔ 第4部 一線を越えたマスコミ テロリストへの同調煽る

筒 状 の 物 体 が 投 げ 込 ま れ 、 身 を す く め る 岸 田 文 雄 首 相 ( 中 央 ) = 2 0 2 3 年 4 月 15 日 午 前 、 和 歌 山 市 ( 目 撃 者 提 供 )( 一 部 画 像 処 理 し て い ま す )

2023年4月15日午前、衆議院和歌山1区補選の応援のため、雑賀崎(さいかざき)漁協に駆け付けた岸田文雄首相を狙って、パイプ爆弾のような物を投げ付けられる事件が発生した。逮捕されたのは木村隆二被告(24=当時)だった。

事件から3日後、国際政治学者の細谷雄一氏はツイッター(現X)で次のことを指摘した。「テロリズム研究では、テロリストの犯行の背景を理解しようという姿勢自体が、テロリストの目的達成を幇助(ほうじょ)するということが一般的理解」。つまり、同様の事件を繰り返させない要諦は、報道機関が犯行動機を無視することだ。

だが、安倍晋三元首相暗殺事件の全体像が見えないのに、マスコミは「宗教団体に恨みがあった」という、捜査当局のリーク情報に飛び付き、それが犯行動機だという前提のもと、報道を過熱させていった。

お笑いコンビ爆笑問題の太田光氏は、岸田首相襲撃事件が起きる前に上梓(じょうし)した『芸人人語 コロナ禍・ウクライナ・選挙特番大ひんしゅく編』のあとがきで、次のように書いている。「(山上被告の)供述の言葉が本当なら、今のテレビの動きは、犯人の思惑通りに進んでいる。何かを主張する為の手段が殺人であっていいのか……テレビは『政治と宗教の関係』を追及すると同時に同じ熱を持って、『実力行使』は何の効果もないんだ。ということを、メッセージとして発信しつづけなければならないと思う」

教団追及に過熱するテレビ報道が第2、第3の山上被告を生み出しかねない状況に危機感を示す発言は自身がMCを務める「サンデー・ジャポン」(TBS系)でも行った。しかし、これも「教団擁護」としてバッシングを受けた。

実質、山上被告のテロを成功させてしまっている現状に警鐘を鳴らし、〝炎上〟した有識者はほかにもいる。首相襲撃事件から2日後、朝のワイドショー「めざまし8」(フジテレビ系)に出演した社会学者・古市憲寿(のりとし)氏は次のような見方を示した。

安倍氏暗殺事件と、それから1年と経(た)っていない時期に起きた襲撃事件の二つは選挙遊説先で起きている。まだ不明な点が多く、木村被告は山上被告の「模倣犯」と断定するには早いが、同被告による事件に刺激されたとみて間違いない、と。

この番組では、弁護士の橋下徹氏が、政治の問題に踏み込む発言を行った。「安倍元首相を襲撃した山上被告の、あの行動によって、報道だけじゃなく実際に国が動いた。法律を作って。もちろん旧統一教会をきちっと是正していく、問題があれば対処していくのは当然だが、山上被告の行動によって国家が動いたという現実をつくってしまったことは大きな問題だ」。テロで国が動くように煽(あお)ったのは、教団批判で過熱したマスコミ報道だった。

『芸人人語』の最後に収められたのは「一冊の本」22年8月号掲載の原稿だ。首相在位期間が憲政史上最長を記録した安倍氏が公衆の面前で殺害された事件から数日後に書いたとみられ、太田氏をはじめテレビ局関係者の動揺ぶりが伝わってくる。その中に次の一文がある。

「犯人が語る犯行動機だって、それが本心かどうかもわからない。もしかすると、犯人自身にもわからないかもしれない。地下鉄サリン事件にしろ、ケネディ大統領暗殺にしろ、結局それが何だったのかを、これだけ時間が経っていても、明確に説明出来る人間はいない。むしろ時間が経過すればするほど、『言葉』や『情報』が増え、『真実』から遠くなるかもしれない」

安倍氏暗殺事件から2年になろうとする今年6月末、山上被告に接見した弁護団は、政府による教団への解散命令請求などについて、同被告が「この状況を引き起こすとは思っていなかった」と語ったことを明らかにした(日経新聞)。さらに「(事件前は)追い詰められており、先を想定したものではなかった」とも。もしこの言葉が本当だとするなら、犯行動機がはっきりしない段階から「一方に過熱」する報道や言動を続けたテレビ関係者やコメンテーターはどう受け止めるのだろうか。

(信教の自由取材班)

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