「テレビは自民党議員と旧統一教会の繋(つな)がりの追及に躍起になっている。一方向に過熱するのはテレビの悪い癖だ、と私は思っている」
お笑いコンビ爆笑問題の太田光氏が2022年9月末、一冊の本を上梓(じょうし)した。『芸人人語 コロナ禍・ウクライナ・選挙特番大ひんしゅく編』。朝日新聞社が発行する文芸月刊誌「一冊の本」20年12月号から22年8月号までの連載を加筆・修正して掲載した、333㌻もあり最近の本にしては厚みのある本だ。冒頭の言葉は8月初め、そのあとがきに書いた。
太田氏は政治や社会問題も話題にする日曜日朝の時事バラエティー「サンデー・ジャポン」(TBS)のMCを務める。テレビのワイドショーなどが世界平和統一家庭連合(家庭連合=旧統一教会)について「霊感商法」や高額献金問題を取り上げ批判一色となる中、「教え自体が間違っているとは誰も言えない」などと、他のコメンテーターとは一線を画す発言をたびたび行ってきた。しかし、他の出演者から即座に否定発言が出た。またSNS上では「擁護している」「テレビに出すな」とバッシングを受けた。
「私にとって大切なのは、政治でも宗教でもなく『テレビ』だ」と、テレビへの強い思い入れを持つ太田氏。だからこそ、安倍晋三元首相暗殺事件から1カ月余りしか経(た)っていない時点でも、「一方に過熱する」テレビ報道ぶりに危惧を抱いたのだろう。
事件発生直後、山上徹也被告は犯行動機について「教団に恨みがあった」と警察に供述したとの報道が一斉に流れた。マスコミは、それが教団関連団体のイベントにビデオメッセージを送った安倍氏暗殺に繋がったとの前提で教団批判報道を繰り返した。
このマスコミの状況について太田氏はあとがきで「断片的に聞こえてくる供述だけをたよりに事件の全体像を決めつけて『政治と宗教』の話にしてしまっていいのか」と嘆いている。
教団への恨みが信者でない安倍氏に向かうのは不自然である。しかも母親が教団に高額献金を行い、自己破産したとされるのは2002年、つまり20年前、同被告が21歳の頃だった。犯行の動機が教団への憎悪だとすれば、年月が経ち過ぎている。暗殺事件と動機に距離感があるだけでなく、恨みを持った時期と事件発生との時間差も大き過ぎる。この間、同被告に何があったのか。
断片的に伝えられた犯行動機と現実に起きた凶悪犯罪とのギャップについて、違和感を口にするテレビ・コメンテーターはいた。しかし、事件の全容を知る上でのカギと言っていい、この疑問を明らかにすることは、ワイドショーをはじめマスコミが、教団批判に過熱することで脇に追いやられてしまった。
番組制作者たちの脳裏に「信仰の自由」という概念が思い浮かばなかったわけではないだろう。しかし、「無宗教」が当たり前とされてきた戦後の社会風潮の中で、信仰について深く考えた経験を持つマスコミ関係者はあまりいないのではないか。ましてや「信仰の自由」を侵害することは民主主義の根幹を揺るがす重大問題だというところまで考えが及ばなかったのだろう。
テレビはユーチューブ番組などに押されて、視聴率の低迷が続く中、視聴率追求に血眼になっている。これが教団批判で過熱することに繋がったとも考えられる。
あとがきで太田氏は、ワイドショーが反家庭連合に偏った要因を考える上で重要な事実を明らかにしている。20年以上続く番組の中で、安倍氏暗殺事件が発生するまでは「一度も統一教会の話題を取り上げた記憶がない。今の若いスタッフには統一教会という名前すら知らないのがほとんどだ」。
これはテレビ関係者に限ったことでなく新聞などの記者も似た状況にある。そこで、番組製作者や記者たちが情報源として頼ったのは、長年、教団からの被害を訴えている元信者の弁護をする弁護士や、反対する立場から取材してきた鈴木エイト氏や反教団活動家だった。彼らはワイドショーから引っ張りだことなった。一方で、家庭連合広報局によると、「サンデー・ジャポン」からの出演要請は一度も来ていない。
家庭連合を巡るマスコミ報道について、『潜入 旧統一教会』の著者でノンフィクションライターの窪田順生氏は「『旧統一教会報道』と言いながら『被害者報道』になっている」と指摘する。信仰の自由を守るべきマスコミが批判一方で過熱、一線を越えて暴走してしまう構図はこうして出来上がった。
(信教の自由取材班)