【連載】脅かされる信教の自由㉒ 第3部 信者への差別・人権侵害 声を上げ出した信者たち

シンポジウムで街頭演説の体験談を話す川原 さん=3月、千葉県千葉市(豊田剛撮影)

世界平和統一家庭連合(家庭連合、旧統一教会)への解散命令請求が昨年10月に出され、教団信者の多くは、教団側の対応を見守ってきたが、信者たちの一部は独自に街頭に立ち、自身の意見を社会に訴え始めた。

20歳の時に新宿で声を掛けられ教団に入信した足立区在住の30代男性信者、三関和也さん(仮名)は、昨年10月から千葉県のJR松戸駅で街頭演説を始めた。もともと「信仰を持つ人の発信が少ない。誰かこのひどい報道を跳ね返してくれないのか」という思いを安倍元首相銃撃事件以降から抱いていた。

「教会職員の中にも過去の批判報道で傷ついている人がいる。教会職員だけが信者というわけではないのだから、自分がやりたいと思っているなら、迷わず声を上げようと思った」と話す。

当然、街頭に立てば自分も批判されたり、私生活に悪影響が出たりするかもしれない、危害を加えられるのではという不安もあった。だが、始めてみると、一緒に参加する信者も増え、配布するビラのイラストを描いてくれる人も出てきた。最近は信仰を通じ、自身が成長できたことも話している。

今年1月には千葉県で「信教の自由と人権を守る千葉県民の会」が信者を中心として発足した。代表となった八千代市在住の小笠原裕さん(61)は、教団に対する社会の風当たりについて「宗教排除の理論が社会全体に広がっている。宗教界が意識して立ち上がる必要があり、そのためにまず当事者である私たちが声を上げなければ」と強調する。

3月には千葉市内でシンポジウムを開催した。国会議員や弁護士、キリスト教牧師などを招いたが、小笠原さんが重視するのは信者本人が直接街頭に立ち、率直な思いを世間に訴えることだ。

同会の理事を務める千葉市在住の川原義昭さん(63)も、昨年秋からJR千葉駅前で街頭演説を始めた。川原さんは「家庭会」と呼ばれる信者同士の横のつながりから、街頭演説の取り組みを全国へと展開。7月には開催場所が140カ所を超えるなど、その輪は着実に広がっている。

街頭に立って、妨害されることもたびたびあった。今年5月ごろ、通行人から目の前で暴言を繰り返され、見かねて仲裁に入った人すら川原さんが“旧統一教会”と知ると、手のひらを返して暴言に加勢した。川原さんは警察を呼んだものの、警官はトラブルを真剣に取り扱おうとはせず、いつの間にか姿を消した。

「人々の偏見を正すのは簡単ではないが、誠実に真実を訴え、共感してもらえる人を見つけていくことが大切だ」。川原さんは、街頭演説を通じて教団内部の改革にもつなげたいとも考えている。

「信者はトップダウンで動きやすく、自分の言葉や意見を表現する機会が少なかった。街頭に立つことで一人一人の主体性を育て、可能性を開いていきたい」と語る。

福岡市在住の伊藤大地さん(70)もそう考える信者の一人。一連の報道に理不尽さを感じ、2022年9月以降、街宣活動で信教の自由について発言するようになった。それをネット上で配信すると、全国の信者から「勇気ある行動に感動」と多くの反響があった。「教会が組織として動かないのであれば、信徒が立ち上がらなければと思った」と訴える。さらに、「自分たちだけの言い分を主張するだけでなく、国難の状態にある日本はどうあるべきか。国のことを考えた上で、力強いメッセージを発信する必要がある」と意欲的だ。

今年6月に熊本県熊本市で信者らは「基本的人権・信教の自由を守る熊本県民の会」を結成し、市内でデモ行進をした。一般大衆にアピールする動きは全国各地に広がっている。

(信教の自由取材班)

=第3部終わり=

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