世界平和統一家庭連合(家庭連合=旧統一教会)への批判報道によって、信者と非信者の家族や親戚との亀裂が深まる事態が起きている。バッシング報道の影響を受けた信者の親が、棄教の意思を書面で示すよう強要した事例もある。
熊本県在住の木村英明さん(41)は2年前、父親から「(教会を)五年以内に退会します」と書かれた用紙にサインするように求められ、不本意ながら自身の名前を書いた。東京からUターンで地元に帰り親との同居も考えながら、準備を進めていた時に安倍晋三元首相の暗殺事件が発生。
強く反対している父親の主張には、事実に基づかないものも混ざっていたが、特に堪(こた)えたのは、「身元の保証人」にならないと言われたことだった。Uターン後に就職が決まっていた会社に入るため、親に保証人となってもらう必要があった。しかし父親は、「辞めなければ会社に電話して、息子は統一教会だから、入社しないよう断ってもらう」とまで言いだした。
見かねた母親が「さすがに人権侵害だ」と止めに入り、最終的に保証人となる条件として、父親が用意した誓約書に木村さんが署名することで、いったんは落ち着いた。
信仰を理由とした家庭内暴力も起きている。首都圏在住の信者の足立光代さん(仮名、70代)の夫は教会に反対している。普段は穏やかだが、家庭連合の批判報道などを目にすると一変して機嫌が悪くなり、足立さんに暴力を振るうことがあった。
2年前と昨年にも「俺の人生をめちゃくちゃにした」などと暴力を振るわれ、足立さんは肋骨(ろっこつ)にひびが入るけがを負った。だが、夫にはそのことを伝えず、治療した病院でも不注意による室内事故として隠し通した。
足立さんは「暴力がひどくなることへの恐れもあるが、憎むのではなく許したいという思いがあったので、暴力についての話題を出すことはなかった」と話す。だが、家庭連合の解散命令請求が確定した場合、夫の反対がさらに激しくなるのではないかと憂慮している。
信者の中には親族に迫られて、相続放棄をせざるを得なかった人もいる。中国地方で暮らす新倉昭雄さん(仮名、50代)は過去、親族から強制棄教を目的とした拉致監禁の被害に遭いかけたことがある。
結果的に未遂で終わったが、その後も地道に両親との交流を続けた。母親が体調を崩した際は、違和感にいち早く気付いた新倉さんの妻がケアを行った。新倉さんの妻は「最初は会いに行っても、けんもほろろという対応だった。それでも諦めずに向き合う中で、お義母さんが生きていた頃には、主人に何度か『帰ってこないか』と打診もあった」と語る。
だが、激しいバッシング報道で、父親を含めた親族の態度が豹変(ひょうへん)。昨年、新倉さんは母親の三回忌に夫婦で参席した際、父親から「脱会しないなら縁を切る。財産放棄をしろ」と告げられた。そして、親族に取り囲まれる形で、財産放棄の意思を示す文書にサインしたのだ。
新倉さんは「父は教団に対して、テレビが報じていることを鵜呑(うの)みにし、私が長男なので実家を乗っ取られ、教団の集会所にされるという疑心暗鬼に駆られたようだ。母のケアも、そういう魂胆があったからだと疑っている」と新倉さんは悔しさを滲(にじ)ませる。
新倉さんの妻も「財産放棄させられたことより、何十年も長い時間をかけて積み重ねてきた信頼関係が壊され、犯罪者のように扱われるのが悔しい」と憤りを隠さない。(信教の自由取材班)