「犯人は悪を退治するヒーローのつもりだったと聞き、憤りを感じた信者は多かったと思う」
愛知県名古屋市にある世界平和統一家庭連合(家庭連合、旧統一教会)の「名城家庭教会」(名城教会)の男性職員はそう話す。2年前の2022年8月15日深夜、名城教会は出入り口の扉などに、スプレー塗料を使った「カルト」「キケン」などの落書き被害に遭った。安倍晋三元首相の銃撃事件から1カ月、家庭連合へのバッシング報道が過熱していた時期だ。
落書き被害に遭ったのは名城教会だけではない。同教会から車で20分ほど離れた場所にある、同県一宮市の一宮家庭教会(一宮教会)でも前日14日の深夜、教会の壁に「カルト出てけ」「山上バンザイ」「売国奴」といったスプレー塗料による落書き被害が起きていた。15日に行われる集会の準備のため、たまたま早く訪れた一宮教会の男性職員が発見した。
事件を捜査した一宮警察署は、付近の防犯カメラの映像などから、愛知県内に住む40代会社員の男を逮捕。男も容疑を認めた。
供述調書によると、落書き犯の男は動機を「犯罪組織まがいの宗教団体と関係する自民党への憤り」「旧統一教会の悪質性を知ってもらうため」としているが、同時に「お盆休みの娯楽」「こういうことをしたら注目されるかも」とも供述している。
男は教団について、ネット検索や週刊誌の記事で調べた結果、多額の献金を韓国に送る「売国奴そのもの」と判断。メッセージ性のある“行動”を起こしたいという衝動に駆られたという。
最寄りにあった一宮教会の場所を調べ、所有していたスプレー塗料を使い、14日の深夜、サングラスで顔を隠して教会の壁に「カルト」などと落書き。さらに黒のスプレーで教会名の記載された銘板を塗りつぶした。
教団にダメージを与えることができたと感じた男は、別の教会にも落書きをしようと、地図アプリで調べた名古屋市内の名城教会に車で移動。郵便ポストを黒いスプレーで塗りつぶし、同じく黒のスプレーで落書きを残した。
取り調べの中で男は落書き行為について、「腐りきった政治と宗教との関係に一石を投じる形になったのでとても満足」とも話しており、供述調書の内容から反省の色は見えない。男は器物損壊罪および侮辱罪で同年9月、一宮簡易裁判所の略式命令により罰金20万円に処された。
23年2月には家庭連合が原告となり損害賠償を求め、東京地裁に民事裁判を提起。今年1月25日、清水知恵子裁判官は器物損壊による物損とともに、「カルト」という表現に対しても「原告の社会的評価を低下させるものである」と名誉毀損(きそん)を認め、2施設での修繕費と合わせて約59万円の支払いを命じた。
「『カルト』という表現が社会的信用を下げるものであると、裁判所から認められたのはありがたい」と評価する教団だが、一方で「法人への解散命令が出れば歯止めが利かなくなり、これよりもっとひどい被害の横行が予想される」と危惧する。
落書き事件後、名城教会は所属する信者に対して、「落書きなら直せるが、鉢合わせすれば、何が起きるか分からない。犯人を見つけても絶対に接触しないように」という指示を出している。教団に対するヘイトが、信者たちの安全に暗い影を落としている。
(信教の自由取材班)