【連載】脅かされる信教の自由⑯ 第3部 信者への差別・人権侵害  「殺すぞ」など脅迫電話

世界平和統一家庭連合(家庭連合、旧統一教会)は、安倍晋三元首相暗殺事件以降、信者や教会がさまざまな被害に遭っていることを明らかにしている。昨年11月7日に記者会見した家庭連合の田中富広会長は「事件以降、本当に大変な状況を経験してきている」と語る。

家庭連合の信徒と教会が受けた被害

「会社を辞めさせられた青年がいる」「教会関連の韓国の大学を出た学生が内定を取り消された」「社会科の授業で延々と教師が家庭連合の批判をして子供が学校に行けなくなった」「テストでその解答が家庭連合を誹謗(ひぼう)するような結論になる問題が出た」「メディア報道で過度にストレスをためた青年が自殺未遂をし、自殺者も出た」…。

同月から教団本部は集計をとり、7月20日現在で全国の信者や教会が受けた被害は351件に上っている。このうち信者が受けた被害は164件、教会が受けた被害は187件だ。

その内訳を見ると、信者が受けた被害は、暴力、通院、自殺など身体的損害を含む被害12件、器物損壊、物品破棄など物的損害を含む被害10件、不動産契約、学校・職場での言動などの差別25件、親族、友人などからの罵倒・脅迫・迷惑行為107件、その他10件。教会が受けた被害は、物品破棄など物的損害を含む被害7件、不動産契約、学校・職場での言動などの差別46件、親族、友人などからの罵倒・脅迫・迷惑行為116件、その他18件だ。しかしこれらは殆(ほとん)ど報道されてない。

「家庭連合の被害というものは、関心もなければ被害というよりも、被害者を出した当事者なので、当然そういう報いを受けて当たり前だろうというような、そういうマスメディアの見方だった」。事件後の状況を家庭連合の佐藤進広報局長はこう振り返る。

351件の被害は教団本部が把握したもので、ほかに信者の若者たちが立ち上げた「信者の人権を守る二世の会」などに寄せられた情報もある。その一部は同会ホームページに載っている。「親が病院に行くと、保険証に書いてある『家庭連合』という文字を見て受付を断られた」ケースなどは、場合によっては人命にかかわる医療現場での差別だけに深刻だ。

「殺すぞ」などといった脅迫電話は全国で「優に1万件は超えるのではないか」(広報局)といい、数え切れず集計されていない。

信者らは安倍氏暗殺とは無関係の人々だ。が、元首相銃撃が驚天動地の事件だったところへ、家庭連合と係争関係にある全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)が、「安倍晋三元首相銃撃事件に対する声明」(2022年7月12日)を発して、「多くの元信者やその家族、二世信者の苦悩や葛藤、生活の困窮などの悩みに接してきた当会としては、かねてよりこのような実情について心から憂いてきたことであり、その意味で、山上被疑者の苦悩や教会に対する憤りも理解できます」と書いた。

被告の「憤り」、つまり殺意に「理解」を示す全国弁連が情報源となり、空前の報道量で家庭連合批判、安倍氏や自民党との「接点」追及が続いた。毎日のように被害を訴える元信者が取り上げられた。

その結果、山上徹也被告の勾留先には多くの金品や差し入れが届いているという。「現在のような状況を引き起こすとは思っていなかった」「2世の人たちにとって良かったのか悪かったのか分からない」。事件から2年、被告は接見した弁護団にこのように述べたという。共同通信の記事だが、一部地方紙は「想定外の状況」(6月23日付山陽新聞)との見出しで報じた。

この「想定外」に家庭連合の信仰を持つ人への人権侵害を見落とすわけにはいかない。(信教の自由取材班)

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