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子供たちに法律を知ってもらおうと2019年に出版された『こども六法』(弘文堂)。77万部のロングセラーとなり、学校現場などでも広く活用されている。そんな同書に新しい「こども基本法」と改正された刑法を加えた『こども六法第2版』が、今年3月に刊行された。著者の山崎聡一郎さんにその狙いなどを聞いた。
(文・辻本奈緒子、写真・加藤玲和)
ロングセラーの児童向け法律書
法律の面白さを提供
法律書であり児童書でもある『こども六法』。その特殊な立ち位置ならではの難しさとして、めまぐるしく起こる法改正がある。六法は毎年改訂版が出るのが当たり前、一方児童書は基本的に内容を改訂することはない。
法改正には、これまで重版改訂で対応してきた。重版改訂というと本来、誤字脱字の修正をする程度だが、ここ数年だけでも成年年齢が20歳から18歳に引き下げられるなど大きな法改正があったため、可能な限りその都度修正した。
なぜ今年のタイミングで「第2版」の刊行に踏み切ったかというと、去年、性犯罪法が改正されたことが理由だった。不同意性交罪に関する条文の分量が大幅に増えた上、性的な同意年齢が従来の13歳から16歳に引き上げられた。

「性的同意に十分な知識や自己認識がない年齢の子供たちを狙った性犯罪が残念ながら横行している。子供たちをもっと強力に保護してあげないといけないんじゃないか」
子供を守るための法改正を、すぐに反映させないわけにはいかない。結果的に性犯罪法制の部分は4ページ増やし、新しい「第2版」として世に送り出すことに。図書館への取り継ぎや図書館司書、書店員などにヒアリングをして、改訂版が受け入れられるかを確認していった。
リニューアルのポイントの一つが、2年前に成立したこども基本法だ。しかし山崎さんは「こども基本法は極端な話、入れなくてもよかったんですけどね」とのこと。というのも、こども基本法は子供を守るための大人に向けた法律だからだ。「大人が子供のためにどうするかということが書かれている法律なので、子供が読むものとして、そのままだとなかなか料理しにくかったです」
山崎さんが『こども六法』の制作を目指したのは、自身が小学生の時、いじめに遭った体験がきっかけ。そして、あろうことか、中学生時代にはいじめの加害者にもなってしまう。
「でも今はいじめに遭っていたかどうかに関係なく、法律が好きだからこども六法を読む子供が多いようです」と山崎さん。「子供たちに法律の面白さに触れるチャンスを与えることができたかなというのは、こども六法を出してよかった点だと思います」
「困ったことがあったり、ニュースで気になる話題が流れてきたりした時にこども六法を引っ張り出してきて、辞書のように使ってもらえればと思います」
『こども六法』を制作する際、「子供に法律なんてまだ早いんじゃないか」「子供が法律を勉強すると生意気になる」という声も上がった。それでも「想像していたよりはずっと少なかったです」と山崎さん。「法律は大人も子供も等しく守ってくれるもので、知らないより知っていた方が人生を豊かにしてくれる。ましてや未来を生きていく子供にはちゃんと教えておきたい知識だという認識は、相当に広まっていると感じます」
子供に法教育をしたい親に対してはまず調べてみることをアドバイスする。「法教育+地名」で検索すれば、地域の弁護士会による講座などがヒットする場合も多い。また、「裁判傍聴は常にすべての人に開かれている権利ですから無料で見ることができるし、どんどん連れて行ってあげたらいいと思います」とのこと。
これからの時代に子供たちに身に付けてほしいのは、「人生を選ぶ力を育てること」と山崎さんは語る。
あらゆることに無限の選択肢がある今の時代。就職一つをとっても、企業に入社せずに起業する、定職には就かずノマドワーカーとして生活するなど、さまざまな生き方をする大人を、子供たちは見ている。
例えば、ユーチューブなどによくある「使ってよかった家電3選」「掃除道具5選」というようなタイトル。選択肢を増やす以上にむしろ絞り込むことが求められる時代なのかもしれない。こうした「選ぶ力」が大切だと、山崎さんは子供たちに伝えている。
一方で、大人が子供にできることの一つとして、大人自身が幸せに生きている姿を見せることを挙げる。「子供たちはすごく大人をよく見ています。親や先生など周りにいる大人を尊敬している子も多い。彼らを見ていると、大人こそがもっと自分のための人生を生きていけるようになるのが、これからの日本では大事だなと感じます。そういう生き方をしている大人を目撃する方が、子供は自分が大人になった後に対しても希望が持てるはずです」