
「勝共連合の何十周年大会というと昔は、きら星のごとく国会議員が並んでいたんだけど、昨年の55周年大会はなぜか僕が来賓代表だった。どうして国会議員がいないのか。意気地がないんだ」
元栃木県議で県議会議長と自民党栃木県連の幹事長を務めた保守の重鎮、増渕賢一氏は、宇都宮市の自宅で本紙の取材に応じ、苦虫を噛(か)み潰(つぶ)したような表情でこう語った。
国際勝共連合(梶栗正義会長)は、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の関連団体で共産主義の克服を掲げる政治団体だ。増渕氏は、昨年6月16日、東京で開催された同連合の創立55年記念大会に出席した唯一の来賓だった。安倍晋三元首相の銃殺事件が起きるまでは来賓席の前方を埋め尽くし、50周年記念大会には50人以上いたとされる国会議員の姿が一人もなかったことに唖然(あぜん)とした。
それから1年。今月13日に開かれた勝共連合の大会には、国会議員と地方議員の姿があった。増渕氏は来賓あいさつで登壇すると、少し安堵(あんど)した表情を浮かべ、次のように述べた。「多くの同志がこの問題が起きてから冷たい態度を取っているが、他にも同志がいるのを見て心を強くする」
増渕氏が勝共連合と関係を持つようになってから50年にもなる。同連合の栃木県支部を発足させた当時は、公安関係者から「韓国と関係があるようだ」と注意を促されたが、目指す政治の方向性が一致していたことから意気投合したという。
政府・自民党が2022年8月、旧統一教会および関連団体と一切関係を持たない方針を出した。すると、全国各地で信者が、アパートの契約を断られたり公共施設の使用を拒否されるなどの差別、殺害予告などの被害を受けるようになった。
「国民の意識が高まればこんなことは起きないはずなのだが、基本的人権ということについて国民の意識がそこまでいっていないんだ。マスコミを含めて特に基本的人権が云々(うんぬん)って叫ぶ左翼の人たちが盛んにこれ(家庭連合のネガティブキャンペーン)を推進、後押ししているわけ」
事件以前から保守的な言動をすることから革新系団体やマスコミから常に標的にされてきた増渕氏は、マスコミに対して失望を通り越して絶望感すら覚えるという。
「僕は34年間県議会議員をやっていて、人権問題なんて扱ったことは1回もないよ。当たり前のことだからね。自由民主党、保守系の議員にとっては、基本的人権、信教の自由なんて当たり前のことだから。その当たり前の前提を自民党のトップが自ら崩してしまったというのは明らかにおかしい。日本の総理大臣が神聖不可侵なこと(信教の自由)に踏み込んで、恬(てん)として恥じない。しかも、党員に統一教会と接触を禁じ、関連団体との接触も禁じるなど、おかしなことだ」
自民党から誰一人として家庭連合信者の人権については擁護する議員がいない。理由を尋ねると、増渕氏は「(衆院議員選挙の)小選挙区制の弊害なんだよ」と即答した。
「小選挙区制における党のトップというのは独裁者なんだ。党員の生殺与奪の権利を握っていますから。総裁に逆らうと次の選挙で公認が取れない。小選挙区で無所属として戦うのはどれだけ難しいことか」
地方から政界を見続けた眼差(まなざ)しには、家庭連合の宗教法人解散命令請求にまで至った原因に「選挙」があると映っていた。
(信教の自由取材班)