トップ国内【連載】脅かされる信教の自由⑨ 第2部 地方議会への波紋 故安倍氏に献花、社民除名

【連載】脅かされる信教の自由⑨ 第2部 地方議会への波紋 故安倍氏に献花、社民除名

北九州市議会議員 井上真吾氏(下)

一人会派の井上真吾・北九州市議は、安倍晋三元首相が銃撃された2022年7月、社民党に党籍を置いていた。安倍氏と政治の方向性は対極にあるが、信念を持つ政治家で演説が上手であることから、尊敬の念を抱いていた。哀悼の意を示そうと、同僚の無所属議員と一緒に、関門海峡を挟んで北九州市の対岸にある山口県下関市にある安倍氏の事務所に花を手向けた。

デモの先頭に立って信教の自由を訴える井上真吾氏(左)=6月30日、北九州市小倉北区
デモの先頭に立って信教の自由を訴える井上真吾氏(左)=6月30日、北九州市小倉北区

事務所を出た後、マスコミに囲まれてインタビューを受け、社民党に党籍があると伝えると、「党は国葬反対なのになぜ来たのか」と問い詰められた。選挙演説中の安倍氏銃撃について「(憲法に守られている)思想信条の権利を踏みにじることは許せないという思いから」と答えた。間もなく社民党福岡県連の三役に問い詰められ、1年間の党員資格停止処分を受けた。続いて昨年2月、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の信者による請願の紹介議員になったことを受け、けじめとして離党届を出したが、除名処分が通告された。

普段は人権を叫んでいる共産党や社民党が、人の命をおろそかにしている現実を目の当たりにした。井上氏は、憲法に規定されている基本的人権に対する思いは強い。「地元の寺の門徒(檀家(だんか))代表をしている」が、そのお寺も寄付によって建てられており、信者の寄付行為にも理解を示す。

無神論者でない井上氏が共産党に入党したのは18歳の時だった。大学受験で訪れた神戸市が阪神淡路大震災に遭い、ボランティア活動の窓口になったのが共産党系団体だったことがきっかけだ。大学の夜間コースを卒業すると、これまでお世話になったこともあり、入党を決意。共産党議員として2期8年間務めた。その間、自治体など地域のための活動に力を入れたが、「党のためにもっと仕事をするように」と迫られ、固辞したことで離党し、3期目を諦めた。

その後、30社もの企業面接に落ちた。共産党議員の履歴が足かせとなったと感じているという。起業したり、工事現場の仕事をするなど下積み生活をして、8年後、社民党の支援を受けて議員に返り咲いた。

安倍氏の事件後、家庭連合が解散に値する団体とされ、多くの信者が全国各地で被害を受けているという認識が国民の間に広がった。しかし、共産党議員の8年間、そして8年後の21年に議員に復活した後も、家庭連合の高額献金や霊感商法の被害に関する相談を受けたことはなかった。

関東大震災では朝鮮人や共産党員らが虐殺されたという記録が残る。「過去で学んでいるはずなのに、共産党や社民党が声を上げないのはおかしい」とも。解散命令請求が通ってしまえば、共産、社民両党やほかの宗教団体も「弾圧の対象になる。明日はわが身だろう」と警鐘を鳴らす。

家庭連合は昨年8月、「関係を一切持たない」と決議したのは、特定の宗教に対する差別を煽(あお)る違法行為だとし、北九州市を相手取り慰謝料など1100万円の損害賠償を求めて福岡地裁に提訴し、係争中だ。現在の政府やマスコミによる家庭連合バッシングは、井上氏には「集団リンチ」に映る。「排除やいじめの構造を変えていくためにも、重要な裁判になる」と指摘する。

6月16日には、家庭連合の信者が熊本市で開いた集会を開催。信者らと一緒にデモ行進し、「政府は信教の自由を守れ」と声を上げた。500人もの参加者がおり、やじ馬によるトラブルに巻き込まれないか心配だったというが杞憂(きゆう)に終わった。「警備すらなく、周りの人々は好意的に見守ってくれた」という。30日には北九州市で行われたデモにも参加した。

家庭連合の問題を冷静に見る人が増え、世の中の風潮としては「家庭連合=悪」ではなくなっていると感じている。「政治家はもちろんのこと、司法も矜持(きょうじ)を持ってほしい」。こう力強く訴えた。

(信教の自由取材班)

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