選挙遊説中の安倍晋三元首相が暗殺されて、8日で2年となる。事件をきっかけに山上徹也被告が恨みを持っていたとされる世界平和統一家庭連合(家庭連合、旧統一教会)への非難・攻撃が強まり、岸田文雄政権は、同教団の解散命令請求に突き進んだ。法的根拠不確かなまま、特定宗教団体が標的とされることで、戦後の日本の繁栄の基礎となった信教の自由は重大な危機に直面している。(信教の自由取材班)
「私個人は、知り得る限り、当該団体とは関係ない。…国民の疑念を払拭するため、今回の内閣改造に当たり、私から閣僚に対しては、政治家としての責任において、それぞれ当該団体との関係を点検し、その結果を踏まえて厳正に見直すことを言明し、それを了解した者のみを任命した」
2022年8月10日、岸田文雄首相は内閣改造を実施するに当たり、家庭連合との関係見直しが任命条件であることを言明した。首相は、「社会的に問題が指摘されている団体との関係については、国民に疑念を持たれるようなことがないよう十分に注意しなければならない」と述べ、家庭連合が「社会的に問題が指摘されている団体」であるが故の措置であると述べた。
家庭連合と関係のあった議員は入閣させないというのは、行政のトップである首相が特定宗教を排除することに繋(つな)がり、憲法で保障された信教の自由に抵触する重大な措置である。しかも、その根拠は「社会的に問題が指摘されている」という、判断の責任を他者に委ねる極めて曖昧なものだ。
安倍晋三元首相が凶弾に倒れてから1カ月が過ぎ、7月10日投開票の参院選挙で圧勝した岸田首相(自民党総裁)は、7月中旬までの世論調査で、内閣は高支持率を維持していたが、事件後、家庭連合と自民党との関係がメディアで盛んに報じられ、だんだん雲行きが怪しくなりつつあった。
安倍元首相銃撃犯の犯行動機について、母親が入信した家庭連合に対する「恨み」であることを事件当日の夜に奈良県警関係者がリーク。これに飛びついたマスコミが家庭連合報道を過熱させると、1987年の設立以来、教団に敵対する立場で活動してきた全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)の紀藤正樹弁護士などがテレビ番組や、立憲民主党、共産党などの政党ヒアリングにも積極的に顔を出してマスコミの批判報道をリードした。
全国弁連はそれまで35年間、いわゆる霊感商法関係の訴訟、家庭連合の元信者や現信者の家族・親族と教団との訴訟などを一手に引き受けてきたので、教団と関係する訴訟関連の情報をほぼ独占していた。「霊感商法の過去35年間の被害総額は1237億円」「これは被害の一部で、仮に10分の1だとしても、1兆円を超える被害が過去に起きている」(紀藤氏)など、全国弁連の主張が一方的にマスコミにより拡大されていった。
そういう中で誕生したのが第2次岸田内閣だった。ところが、ふたを開けてみると、任命した閣僚と教団との“関係”が次から次へと明らかになり、首相は釈明と対応に追われるようになる。
岸田首相の最大の過ちは、「社会的に指摘されている」問題の真偽を政府として確かめることをせず、教団側と敵対関係にある一部弁護士団体の主張とそれを元にした報道を鵜呑(うの)みにしたことであった。支持率の低下に慌てふためき、行政府の長として守るべき公平・公正を放棄したのである。
しかも、これには笑えない落ちが付く。記者会見で岸田首相自身の家庭連合との関係について、「私個人は関係ない」と述べたのが、全く事実に反していたことが朝日新聞の報道(23年12月4日付)で明らかになる。
岸田首相は、自民党政調会長だった19年10月、自民党本部で、ニュート・ギングリッチ元米下院議長と面談した際、同席した家庭連合の友好団体、天宙平和連合(UPF)ジャパンのトップらと面談し、名刺交換もしている。これを追及された首相は自分が言ったことを忘れたかのように、「承知していない」と開き直るばかりだ。
家庭連合との関係を見直さない議員を閣僚から排除するというのは、世論対策上の一種の緊急避難的措置の性格もあったと思われる。しかし、内心に打算を秘めた岸田首相の場当たり的ポピュリズムの手法は、政治の劣化を招くだけでなく、基本的人権、信教の自由、法の下の平等など日本社会の根幹を揺るがすものとなっている。