菟橋神社と本折日吉神社の春季例大祭
「曳山子供歌舞伎」が呼び物
初夏を彩る石川県小松市の伝統行事「お旅まつり」が5月10日から12日まで、菟橋(うはし)神社と本折(もとおり)日吉神社の春季例大祭として開催される。
「お旅まつり」の最大の呼び物が、子供たちが歌舞伎の演目を演じる「曳山子供歌舞伎」で、歌舞伎奉納の歴史は古く、記録では実に250年余りの歴史がある。
子供歌舞伎は、両神社に奉納する神事と位置付けられ、子供歌舞伎が上演されるようになったのは明和3(1766)年ごろと推定されている。
「お旅まつり」は小松市で一番大きなお祭りで、毎年20万人以上の見物客が訪れ、今年は新幹線の延伸で、例年以上の観光客が見込まれている。
歴史をひもとくと、江戸時代の慶安4(1651)年に莵橋・日吉の両社の神輿(みこし)が、3代藩主前田利常公の隠居城だった小松城に渡御し、加越能三州の泰平を祈願したことに始まる。
その後、小松の町衆の祭りとしてきらびやかな曳山がつくられ、歌舞伎芝居が演じられるようになり今日に至っている。
旧市街で曳山を持つ八つの町会が、毎年2町会ずつ持ち回りで受け継いでいる。今年は寺町と八日市町が当番町として準備してきた。
上演は各町会の辻や交差点、神社前で行われ、期間中それぞれ9回上演する。舞台の曳山は高楼式で若衆が引っ張って移動する。漆金箔(きんぱく)に彫刻、天井絵などが施され、絢爛(けんらん)豪華だ。
その上で武士や町娘などに扮(ふん)した子供役者たちが、1時間余り熱演する。長い伝統があるので、豆役者たちの演技は堂々としており、聴衆を引き込んでいく。
稽古は年明けから4月いっぱい、毎週土曜日の午前中続けられた。市を上げた子供歌舞伎と言っても、役者の確保は回を重ねるたびに難しくなっている。
現代っ子たちにとって、時間が拘束されるため、習い事と重なったり、友達との遊び時間も犠牲にせざるを得ない。親世代の意識もかつては市祭に出ることがわが子の思い出づくりになると、積極的に参加を促す親が多かったが、近年は子供の意思を尊重する保護者が増えている。
ようやく決まっても途中でキャンセルになることも少なくないようだ。
子供たちには初めての体験ばかりで、4カ月前から稽古を重ね、本番では独特のせりふ回しや所作を磨き、本番に臨む。
この「お旅まつり」と関連した行事が、5月5日の「こどもの日」を中心に2日間開催される「日本こども歌舞伎まつりin小松」で、今年で25回を数えている。
公募により選ばれた市内の小学5年生から中学1年生の児童生徒で、女子生徒を中心に13人。舞台の袖では長唄や太鼓、三味線などの囃子(はやし)方28人も女子たちが受け持っている。
市の中心部の八つの町内のうち、毎年二つの町会が交代で受け持っている。今回は大文字町と京町が当番町として準備を進めてきた。
こうしてみると、「お旅まつり」にしても、「日本こども歌舞伎まつりin小松」にしても、「勧進帳(かんじんちょう)」の「安宅の関」で知られる小松ならではの歌舞伎の伝統が息づく式典だ。
(日下一彦)