家屋倒壊、重い瓦屋根が原因?

統一感ある黒瓦の家々
「能登の里山里海」の構成要素
最大震度7を記録した能登半島地震では、多くの住宅被害が出た。倒壊した家屋の多くは古い木造建築で、黒い瓦屋根が倒れた柱や壁を覆っている光景が幾つも見られた。
この黒瓦は、「能登瓦」とも呼ばれる独特の瓦で、通常の瓦より厚く、黒い釉薬(ゆうやく)を塗り、耐寒性や耐雪性に優れている。冬寒く雪の多い能登の風土の中で生まれたものだ。しかし今回の地震では、その重さが多くの古い家屋が倒壊する原因になったと見る住民も多い。
一方、この黒瓦の伝統的な景観が失われていくことを懸念し、それを守ろうという声も上がっている。石川県は震災からの「創造的復興プラン(仮称)」策定にあたり、住民の声をそれに反映させようと、輪島市や珠洲市で、住民参加の「のと未来トーク」を開催した。そこでも、「黒瓦の風景を残していかなければ、能登らしさがなくなる」といった意見が、何人もの参加者から出た。
世界農業遺産「能登の里山里海」の活用実行委員会は、能登瓦の家々が「能登の里山里海」を構成する欠かせない景観となっていると次のように述べている。
「能登には、黒瓦の屋根と下見板張りの伝統的な住居が多く、統一感のある景観と独特の風情を生み出している。黒瓦は、『能登瓦』とも呼ばれ、材料に能登の水田の土を使い、山の薪(まき)を燃料にして、七尾市や珠洲市などの農村地帯で生産されてきた。黒あるいは銀黒の美しい釉薬で覆われた能登瓦は、耐寒性に優れるといわれている。輪島市の黒島(旧門前町)、鵜入などは、能登瓦の民家がまとまって見られる集落の代表である」
能登瓦と下見板張りの家屋は、海沿いの集落に多く見られる。青い海を背景に黒い瓦屋根の家々が並ぶのが、最も能登らしい景観といえる。また、晴れた日には、釉薬を塗った瓦屋根がキラキラ光り、日本海の荒波や重い雪雲のイメージとは違った、もう一つの能登の顔を作っている。
かつて北前船の拠点として栄え、いまも黒瓦の古民家が多く残り、能登地方で唯一、国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されている輪島市黒島地区。ここも深刻な建物被害を受けた。保存地区のすぐ前の海岸線は地盤隆起によって200㍍も沖に遠ざかり、黒島漁港は完全に干上がってしまった。保存地区に入ると、至る所で古い建物が倒壊している。町の象徴で国指定重要文化財の「旧角海家住宅」も全壊した。
今後、地区の復旧について輪島市と住民との話し合いが持たれるが、住民の中には黒瓦の伝統的な家屋を復旧することに対し安全面での不安を持つ住民も少なくないようだ。
ただ能登瓦の屋根でも、全壊、半壊を免れた建物は沢山ある。被害を受けたのは1981年の建築基準法改正前の建物が多いという。
景観の保存では、黒島地区のような特別な地区は、公的な支援を得やすいだろう。しかし能登には黒島地区のような特別の建造物保存地区でなくとも、黒瓦や下見板張りの家屋は至る所にあり、人々の生活の場となっている。それらの家屋が今後の復興過程でどうなるかが、より大きな課題となってくる。
観光が産業の大きな柱となっている能登では、世界農業遺産の「能登の里山里海」がこれからの復興の重要な柱となってくるとみられる。その構成要素となっている能登独特の黒瓦の景観を、安全性を確保しながらいかに残していくか議論を深める必要がある。
(特別編集委員・藤橋進)






