
衆院小選挙区で選出された自民党議員が2代連続で逮捕という異例の不祥事が飛び出した東京15区。公認・推薦を断念した自民の「不戦敗」により、浮いた保守票を狙って候補が乱立する中、立憲民主党と日本維新の会はそれぞれ新人を擁立。党幹部たちによる「口撃」の応酬が目立つ。その上、常軌を逸した選挙妨害被害が発生し、戦局は混迷を深めている。
「赤旗がなかったら、裏金は裏のままだった。金権腐敗の根を断つために、市民と野党の共闘を進めていきたい」。東京メトロ東陽町駅前で共産党委員長の田村智子が裏金批判と党機関紙のアピールをすると、年齢層の高い支援者たちが「そうだ」と歓声を上げた。
共産党候補者のための演説ではなく、立民新人の酒井菜摘への応援演説での風景だ。田村以外にも、知名度の高い立民の蓮舫や社民党党首の福島瑞穂などが勢ぞろい。さらに共産系の「新日本婦人の会」や、「市民と政治をつなぐ江東市民連合」などの団体が集結。酒井の第一声は東京メトロ豊洲駅近くで行われていたが、その時よりも多くの支援者が集まり、熱気に包まれた。
政権批判票を取り込むため候補を取り下げた共産は、立民との共闘に意気込む。
一方、東京都青年会議所が主催したネット討論会には、「調整がつかない」ことを理由に東京15区の候補者の中で唯一欠席。ネット上では「逃げた」と批判するコメントも見られた。
酒井の討論会不参加に対し、維新は敏感に反応。翌17日の会見で幹事長の藤田文武は「不思議な話」と疑問視し、「自分たちの考えを国民に知ってもらう機会を逸したのは残念。世論調査では一番強いとされる立民・共産連合軍の候補だから、ちょっと惜しかった」と揶揄(やゆ)した。
新人・金沢結衣を公認した維新だが、世論調査では立民の後塵(こうじん)を拝している。来年予定される関西万博の建設費増加を巡る批判も根強い。代表の馬場伸幸は18日の記者会見で、政治改革において有言不実行であるとの理由から、「立民はたたきつぶす必要がある」と強調するなど、立民への「口撃」が強まっている。
国政への返り咲き狙いがささやかれている都知事・小池百合子は、作家の乙武洋匡の擁立を主導したが、告示日前に自身の学歴詐称疑惑が再燃した。無所属で出馬した乙武も、過去の女性スキャンダルによるネガティブなイメージが拭い切れていない。
告示日前の14日、豊洲で行われた街頭演説では、小池のほか乙武を推薦する国民民主党代表の玉木雄一郎、昨年12月の区長選挙で小池の後押しを受けた江東区長の大久保朋果も駆け付けた。休日ということもあり、買い物客ら多くの人々が集まったものの、そのほとんどは拍手もせず、厳しい目を乙武に向けていた。選挙戦終盤になっても負のムードを打開したとは言い難い。
乱戦の中、候補者を悩ませる問題が生じている。大声や罵詈(ばり)雑言で選挙活動を妨害する行為だ。各陣営が被害を受けており、X(旧ツイッター)のトレンドに「選挙妨害」が上がるのが日常茶飯事となっている。
妨害は告示日前から行われており、豊洲で行われた乙武の街頭演説では、小池の学歴詐称問題や乙武のスキャンダルを非難する大音響のやじが飛び、気色ばんだ乙武が思わず反論するという場面もあった。
連日の妨害行為に小池も問題視。19日の記者会見で「命の危険を感じるような場面もあった」と厳しく批判。21日には乙武の陣営関係者が突き飛ばされ、職業住居不詳の男が公選法違反容疑で現行犯逮捕された。混戦の結果も気になるところだが、今後の選挙方法にまで影を落としかねない事態だ。
日本保守党から出馬した飯山陽は、安全保障政策やLGBT政策についての意見が自民に批判的な保守層に歓迎され、存在感を示している。(敬称略)
(衆院補選取材班)