「保守王国」で進む自民離れ 島根1区 【衆院補選現場を行く】(上)

演説に耳を傾ける人々 20日、島根県松江市 (豊田剛撮影)
自民党派閥の政治資金パーティー券収入不記載に起因する「政治とカネ」の問題が最大の争点になる中、三つの衆院補欠選挙が28日投開票される。そのうち、激戦となっている島根1区と東京15区の終盤情勢を現地ルポする。(衆院補選取材班)

島根1区は、1996年に小選挙区制が導入されて以来、前衆院議長・細田博之が連続11回で議席を独占している。この「保守王国」で、自民は「政治とカネ」を巡る逆風にあらがえずにいる。

自民は元財務官僚の新人・錦織功政(のりまさ)を擁立。錦織は「これまで全国各地のお手伝いをしてきたが、私を産み育ててくれたふるさと島根のために貢献したい」と意気込みを語る。元環境相・小泉進次郎は応援演説で、「悪いのは今の自民党。錦織さんは全く関係ない」とイメージ払拭(ふっしょく)に努める。

補選は細田の死去に伴い行われる。細田は派閥裏金事件で解散に追い込まれた清和政策研究会(安倍派)の会長を務めており、批判を受けていた。さらに、後継者を決めていなかったことから、錦織の擁立も遅れた。本来有利に働くはずの「弔い選挙」も今回ばかりは様子が違う。

選対本部長・小渕優子は出陣式からほぼ選挙区に張り付いている。元幹事長の石破茂は何度も足を運び、現幹事長の茂木敏充も精力的に応援する。3補選のうち、唯一候補者を立てている島根1区は、自民にとって絶対に落とせない。

「自民党の政治と金の問題で、国民の皆さんに大きな政治不信を引き起こし、厳しい声を頂いていることについて、自民党総裁として心からおわびを申し上げる」

21日に島根入りした首相(党総裁)の岸田文雄が、松江市郊外でこう述べた。選挙カーに姿を現しても拍手や歓声が起こらなかったのは、今の自民の不人気ぶりを象徴している。

陣営幹部は、「伝統的な支持層の自民離れが起きているだけでなく、公明党の動きが弱い」と指摘する。公明支持層は半分程度しか固められていない。公明が推薦を決めたのは告示の前日だった。出だしでつまずいた。「政治とカネ」を巡って自民に対する不信感は拭えていない。代表の山口那津男が応援に入る予定はない。今回の選挙は選挙区で自民候補を応援する代わりに比例で投票してもらう“バーター”がないため、公明にとってメリットが少ないとの見方がある。およそ2万票あるとされる公明票を獲得することは勝利する上で欠かせない。

「山が動き始めている」。21日、松江入りした立憲民主党代表の泉健太は記者団を前にこう語った。保守王国島根で自民候補が敗れれば、自民は全敗となり、岸田の退陣論は強まる。

立憲民主元職の亀井亜紀子は、高い知名度も手伝い先行する。父の久興(ひさおき)は自民に所属し、国土庁長官を務めた。「私は保守政治家です」と話しており、保守票の切り崩しを図っている。亀井は自民党を、島根を舞台とする神話に登場するヤマタノオロチになぞらえ、「どんな業界団体にも声を掛け、圧力をかけて上から押さえ付けている」と批判し、自民政治からの脱却を訴えている。

各種世論調査では「先行」が伝えられるが、「リードしている実感はない」と陣営は漏らす。革新の基礎票である各労組の集票が進んでいない。元民主党代表の衆院議員・小沢一郎が連合島根を訪れ、協力を仰いだ。

21日には連合会長の芳野友子が松江駅前で登壇したものの、街頭演説に足を運ぶ組合員はまばら。小雨が降っていた影響もあるが、選挙戦唯一の日曜日にもかかわらず盛り上がらないことに陣営は不安を隠せない。

演説者がそろって自民の「政治とカネ」の問題を批判する中にあって、立民代表代行の辻元清美は演説のほとんどを首相批判に割いた。遠巻きに演説を聞いていた中年男性は、「批判ばかりで代案がないのもいかがなものか」とポツリ。「いくら自民がダメでも、これでは立民に期待はできない」というのが本音だろう。無党派層の支持が広がっていることから、「投票率が上がれば勝利できる」(亀井陣営)と踏んでいる。

(敬称略)

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