未来トーク
今月6日、まだ水道も復旧していない石川県珠洲市の県立飯田高校の教室の中は、集まった人たちの熱気に溢(あふ)れていた。石川県は能登半島地震からの「創造的復興プラン(仮称)」を5~6月中に策定するが、その復興プランに住民の声を反映させるため「のと未来トーク」を7市町村で企画、その第1回目が開かれたのだ。
県は先月末に、「創造的復興プラン」の骨子案を発表。「基本的考え方」として①被災住民の声を聞き、過去の災害からの復興の教訓を生かす②単なる復旧にとどめず、自然と共生することで、能登のブランドをより一層高める「創造的復興」を目指す③若い世代や民間・外部の力も活用しながら、地方の課題解決のモデルとなるような復興を実現する――などを掲げている。
石川県の高橋実枝企画振興部長が「アドバイザリーの方々からも、復興プランを作り上げていくには、まず住民の方々の意見を聞くことが重要と強調された」と会の目的を説明。60人の参加者は、5、6人のグループに分かれ、「能登の特色ある生業の再建」「暮らしとコミュニティの再建」「創造的リーディングプロジェクトの創出」など五つのテーマについて語り合った。
事務局を務めるNPO法人「カタリバ」のスタッフ、県庁幹部、復旧・復興本部の下に設けられた県内外の有識者7人による「能登半島地震復旧・復興アドバイザリーボード」の委員も話し合いの輪に加わった。それぞれがまず被災当初の体験を吐露するところから始め、復興と能登の未来についてはキーワードを探す形で熱心に語り合った。
「能登の特色ある生業の再建」を話し合ったグループでは、「能登の文化」をキーワードに選んだ。「能登の文化は、食文化一つを取っても全体的な繋(つな)がりの中で存在しており、何か一つだけを守るのではなく、文化の繋がり、循環を守っていかなければならない。黒瓦の風景も残していかなければ能登らしさがなくなってしまう」といった意見が紹介された。
あるグループでは2地域居住がテーマとなった。「2地域居住することによって未来を先取りし珠洲や能登がトップランナーに躍り出ることもできる。都市部の人は自然やお祭り、文化に引かれて能登に来る。そこから副業や起業でいろんな価値が生まれるのではないか。一方、2次避難でここを離れている人たちも、後ろめたさを感じることなく、行き来できるのでは」といった意見が出された。
「生業の再建」について話し合った珠洲市で農業を営む松本恵さん(51)は、「人間と土とは一体という意味の身土不二という言葉がありますが、能登では食材も豊かでそれが可能。そういう生きたかを大切にする人を呼び寄せて、関係人口を増やし、能登の農業の魅力を伝えていけたらいいと思う」と語った。
7日、輪島市の県立輪島高校で開かれたトークにも多くの住民が参加し熱く意見が交わされた。参加者からは、地盤隆起で干上がった漁港をそのままにして、千年に一度と言われる震災の遺構として、ジオパークにするアイデアなども語られた。
珠洲市や輪島市のトークでは、移住者やUターンでレストランを開業した若い経営者などが活発な意見を述べているのが印象的だった。他地域から来た人やいったん地元を離れていた人の方が、その良さがよく分かるという側面もあるようだ。
県の復興プラン骨子案は、「我が国は今、人口減少と東京一極集中が進んでおり、能登の復興は、近い将来、多くの地方が直面する課題の解となる可能性があります」とうたっている。高い目標設定ではあるが、そのための、材料、アイデアはトークイベントの中で幾つも出てきている。それが復興プランにどう生かさえるか、注目したい。
(能登半島地震取材班)