元日の能登半島地震発生から100日以上が経過したが、倒壊家屋の解体など緒に就いたばかりだ。その一方で復興に向けた歩みは着実に始まっている。(能登半島地震取材班)
石川県輪島市の観光名所で世界農業遺産「能登の里山里海」のシンボルとなっている「白米(しろよね)千枚田」も地震で大きな被害を受けた。棚田のあちこちに亀裂が入り、農業用水も土砂や倒木で破壊された。それでも400年間守り続けてきた能登の財産を絶やすわけにはいかないと、棚田を管理する地元ボランティア団体「白米千枚田愛耕会」が修復作業を開始した。
輪島市街から国道249号を車で東に約15分。途中、土砂崩れのため今も片側通行の箇所を経ながら、「道の駅千枚田ポケットパーク」に到着した。春の日差しの下、海に向かって棚田が広がっている。よく見ると、田んぼには所々、大きな亀裂が入っている。地震前はすぐ前は海だった所が、地盤の隆起で岩場になっている。
愛耕会の白尾友一代表(60)によると、亀裂は田んぼや畔、土手に入っており地滑りを誘発する恐れがあるため、この日(7日)修復作業を本格的に始めた。メンバー11人が作業に当たったが、ほとんどが南志見(なじみ)地区の人たちだ。同地区は国道249号が土砂崩れで不通となり孤立、集落丸ごと集団避難した。メンバーのほとんどが金沢に2次避難しており、車で2時間半ほどかけ、修復に駆け付けたのだ。
千枚田ではオーナー制度を導入し、オーナーがマイ田んぼを持つことができる。白尾さんによるとオーナーたちからは、「いつでも行ってお手伝いしたい」と言う声が届いている。状況が落ち着いたら5人ほど募集して作業にも加わってもらうつもりという。千枚田復活のためのクラウドファンディングも始まっている。
田んぼの土手に腰を下ろして休憩を取りながら、今後のことを話し合う。「週末には用水の掃除をやろうと思いますので宜(よろ)しく」と白尾代表。雑談の花も咲く。集団避難したとはいえ、それぞれ避難先はばらばら。久しぶりの共同作業で、自然と和気藹々(あいあい)の雰囲気になる。
今年のコメ作りは、耕作可能な田んぼ60枚で行う。田植えは毎年、5月のゴールデンウイークの頃に行っていたが、今年は5月の半ばごろになりそうという。
坂本哲志農水相は13日、白米千枚田を含む輪島市や珠洲市の山あいの農地を視察。記者会見で千枚田に関し、サポート・アドバイスチーム(MAFF-SAT)を派遣し、県と連携しながら地元の意向を踏まえ復旧に向け支援を進めていくと表明。「愛耕会の皆様方頑張っていらっしゃったのが印象的でした」と語った。
坂本農水相はまた、「復旧・復興の象徴と同時に、農業や歴史的なものや、農業の文化を象徴するもので、一日も早い復旧・復興が大事」とし、来年には全棚田で作付けができるようにしたいと語った。
愛耕会メンバーの在所である南志見地区では12日、応急仮設住宅が完成し、入居が始まった。北國新聞によると、国土交通省は千枚田周辺を通る国道249号の海側に道路を新設し、ゴールデンウイーク中に供用を開始する意向を固めたという。奥能登のシンボル千枚田の修復、復旧の環境は徐々に整いつつあり、今後、拍車が掛かっていくことが期待される。