金沢市の徳田秋聲記念館で企画展
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明治の文豪・尾崎紅葉の門下には、金沢ゆかりの幻想的な作風で知られる泉鏡花がよく知られているが、もう1人、同じ紅葉門下でまったく別な作風を完成させた作家がいる。
それが明治・大正・昭和と3代にわたって文壇の第一線で活躍した徳田秋聲である。
秋聲は、師の美文的な作風とも怪奇で華麗な美文を駆使した鏡花とも違って、リアリズムを追求して、自然主義の代表的な作家となった。
その地をはうようなリアリズムは、同じ自然主義の作家の田山花袋とも違う独自の世界があってさまざまな批評を呼んだ。
川端康成は、1947年に金沢で行われた記念講演会で、「日本の小説は源氏にはじまって西鶴に飛び、西鶴から秋聲に飛ぶ」と述べて、従来の見方とは違った見解を示している。
川端は、秋聲の背景にあるものが、フランスの自然主義の影響というよりも、江戸時代の戯作文学にあることを指摘しているといっていい。
金沢市の徳田秋聲記念館では、その秋聲を顕彰する企画展「レコオドと私~秋聲の聴いた音楽」が開かれている。
同館で制作したオリジナルCDをもとに、秋聲の愛したさまざまな“音楽”を通じ、それらの描き込まれた作品(小説・随筆)と時代について紹介している。
作品は豊竹呂昇の義太夫に始まり、松井須磨子「ゴンドラの唄」、三浦環「ある晴れた日に」など日本の俳優・歌手による歌曲から海外の演奏家によるクラシック音楽など。
「それらを辿ることで、明治から昭和にかけ秋聲が体感した日本における西洋音楽受容の過程を部分的に追うことができます」(解説書より)。
展示内容には秋聲の音楽への偏愛を示すように、愛用の蓄音器「ゼニススーペリアMSA」などもある。同展は7月20日(土)まで。問い合わせは(電)076(251)4300。
(日下一彦)