ライバルを通し見る映画術 貴田庄著『小津安二郎と七人の監督』

溝口健二、成瀬巳喜男らの再評価も

貴田庄著『小津安二郎と七人の監督』(ちくま文庫)

昨年は日本映画の巨匠、小津安二郎の没後60年、生誕120年で関連本が相次いで出版された。貴田庄氏の『小津安二郎と七人の監督』(ちくま文庫)は、小津とほぼ同時代に活躍した7人の映画監督との対照から小津映画の秘密に迫っている。

取り上げられた監督は、溝口健二、五所平之助、清水宏、成瀬巳喜男、木下惠介、加藤泰。そして小津に影響を与えたドイツ生まれのエルンスト・ルビッチ。

小津映画の特長は細かなカット割りによる独特のリズムと様式にある。著者が最初に取り上げるのは、その対極を行った溝口健二。代名詞は「ワン・シーン=ワン・ショット」。長回しのショットが多いので、舞台を眺めているような効果をもたらす。「映画が演劇という要素を持つかぎり、ワン・シーン=ワン・ショットはかぎりなく魅力的な映画術なのだ」と著者はいう。

同じ松竹の監督で小津と最も付き合いが深く無二の親友であった清水宏は、ロケ撮影が多く、風物をよく描いた。映画評論家の双葉十三郎は、それを「風物病」とけなした。著者はこの風物ショットが溝口映画にはほとんどないことに注目し、それが溝口映画のドラマチックな印象を作り上げる重要な要素になっていると言う。

一方、小津映画の風物ショットは、「場面転換に緩衝や落ち着き」を生んでいると指摘、それが「アンチ・ドラマを作る重要な役目を担っている」と言う。

松竹蒲田撮影所の城戸四郎所長に「小津は2人いらない」と言われ、他社に移籍した成瀬巳喜男については、城戸は大物を逃がしたと言う。小津は優れたホームドラマを作ったが「成瀬が好んで描いた市井に生きる男と女の関係はうまく描けなかった」という指摘も、確かにその通りだ。

最後に黒沢明との関係が語られ、原節子の使い方の違い、原が主演した『白痴』に対する小津の手厳しい批評が興味深い。

他監督との比較から小津の映画技法を探ることを第一の目的とした本書だが、小津と共に日本映画の黄金時代を築いた監督たちに新たな光を当てるものとなっている。

(特別編集委員・藤橋進)

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