EV戦略の見直し相次ぐ 「インフラ」「寒さ」弱点露呈 トヨタ会長「エンジン車は残る」

東京オートサロンで挨拶するトヨタ自動車の豊田章男会長 (1月12日撮影)

電気自動車(EV)の市場に変化が生じている。走行中に二酸化炭素(CO2)を排出しないゼロエミッション車の価値が強調され、各国では近年、EV購入者のために補助金を出すなど、ハイブリッド車(HV)を含めたエンジン車からEV転換に力が注がれてきた。だが、昨年からEV需要の鈍化が目立つようになり、戦略の見直しを検討する企業も出てきている。(石井孝秀)

ドイツのメルセデス・ベンツは2021年7月、30年までに全販売車をEVにすると発表した。だが今年2月、この方針を3年も経(た)たずに撤回することを明言し、30年以降もエンジン車の販売を継続するとした。同社のオラ・ケレニウスCEOは「製品を市場に押し出すことで、人為的に数字を達成するのは意味のないことだ」と強調した。

方針転換を表明したのは同社だけではない。米国のアップルはこれまでEV開発プロジェクトを10年間進めていた。だが、プロジェクトメンバーの多くは生成AI開発分野へ異動になり、プロジェクトを断念した可能性が指摘されている。EV事業は自動運転技術と共に進めていたものの、開発には遅れが生じていたという。米フォード・モーターもEV事業で赤字を出し、120億㌦の投資延期を発表している。

ただし、EV市場自体は「崩壊」と呼ぶほどではなく、販売台数自体は世界的に年々増加している。しかし、想定より数字が伸びず、各メーカーで下方修正が起きており、メディアからは「失速」「伸び悩み」「期待外れ」という厳しい評価を受けている。

EV販売冷え込みの原因の一つとして、充電インフラの整備が進んでいない点は大きい。充電待ちの渋滞が起きることも珍しいことでなく、購入を検討している人々に二の足を踏ませている。

一般の自動車と比べると価格設定が高いため、環境や新技術に関心のある高所得者のニーズは満たせるものの、それ以外の購買者層には響いていないという原因も挙げられる。そのため日本や欧米などの主要国では、手ごろな値段であるHVの売り上げが好調だ。

EVの脆弱(ぜいじゃく)性は冬場や寒冷地で露呈している。寒い時期だとEVは暖房の使用などで電力を消費してしまい、走行距離が短くなりやすい。充電効率が落ちる場合もあり、移動中にバッテリー切れとなってしまうリスクがある。実際、米中西部イリノイ州では今年1月、極度の低温によりEVの充電設備が正常に機能せず、立ち往生するEVが続出した。

トヨタ自動車の豊田章男会長は今年1月、EVの市場シェアは最大で3割と指摘した。EVがインフラとセットである点や世界人口の10億人は電気が通っていない土地に住んでいる点を挙げ、「(EVという)一本の選択肢では、すべての方に移動を提供できない」と強調。残りの7割はHVや水素エンジンなどになるとした上で、「エンジン車は必ず残る。それは規制値、政治の力だけでなく、お客様や市場が決めること」と訴えた。

現状、欧州連合(EU)などが強く掲げるEVへの完全移行という圧力に押され、業界が設定してきた目標にほころびが出てきたと言えるかもしれない。日本においても世界においても、各企業には理想を押し付けるのでなく、顧客のニーズを見据えたEV普及の再考が求められている。

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