切り紙絵で新境地開いた巨匠 国立新美術館「マティス 自由なフォルム」展

「私の仕事の到達点」

南仏ロザリオ礼拝堂を再現

再現されたロザリオ礼拝堂

東京・六本木の国立新美術館で「マティス自由なフォルム」展が開かれている。20世紀美術の巨匠アンリ・マティスの後半生の活動の舞台となる南仏ニース市のマティス美術館の所蔵作品を中心に、最晩年の切り紙絵に焦点を当てた。マティス芸術の集大成となったヴァンスのロザリオ礼拝堂も再現展示している。

「色彩の魔術師」とも呼ばれ、豪奢(ごうしゃ)にして豊穣(ほうじょう)な色彩の傑作タブローを数々描いてきたマティス。今展でもその一つ「赤い小箱のあるオダリスク」などが展示されている。しかし晩年は十二指腸がんを患い、体力の衰えで油絵の制作を断念せざるを得なくなる。そこで始まったのが切り紙絵の制作だ。

マティスにとって切り紙絵は、体力を失った巨匠が一種の手慰みとして制作したものではなかった。それはマティスを悩ましてきた「デッサンと色彩の永遠の葛藤」を解決する新たな挑戦でもあった。

マティスがデザインした緑色のカズラ(上祭服)の展示

今展では、亡くなる前年に完成し今展を機に修復された切り紙絵の大作「花と果実」など切り紙絵を多数展示。「クレオールの踊り子」や「ジャズ」「ブルー・ヌード」などの切り紙絵をじっくりと見ていくと、極限まで単純化された色と形が相互に響き合い作り上げていく世界があることに気付くだろう。これはある意味、マティスが追求してきた美の世界をより純粋化したものといえる。そして何より、そこに制作者の制作する喜びがあふれているように感じられる。

今展のもう一つの目玉は、マティスがその最晩年に取り組んだヴァンスのドミニコ会修道院のロザリオ礼拝堂の再現だ。1947年にマティスは礼拝堂の建設について相談を受け、設計からステンドグラス、陶板壁画を使った内装、そしてキリストの磔刑(たっけい)像、さらには聖職者が着る祭服(カズラ)のデザインまで手掛けた。1951年に献堂式が行われている。

再現展示は、祭壇奥の部分が中心で、西側壁面の窓にはステンドグラスの「命の木」の習作、その右隣りの壁面には、線描で聖ドミニクス像が描かれている。マティスの切り紙絵は、それで終わるのでなく、壁画やタペストリー、服飾デザインの元となった。礼拝堂のステンドグラス「命の木」は、青、緑、黄の3色からなるシンプルな図柄だが、これも切り紙絵がもとになったデザインだ。

マティスは「この礼拝堂は私の仕事の到達点」と語っている。究極の色彩とフォルムを追求し、晩年は切り紙絵で新境地を開いてきたマティス芸術がこの礼拝堂に結晶したのである。

ロザリオ礼拝堂は記者も20年以上前に訪ねたことがある。採光や南仏のやや乾いた空気など、違いはあるが、マティス芸術がこの礼拝堂でどのように息づいているかを十分感じ取ることはできるだろう。同展は5月27日まで。

(特別編集委員・藤橋進、写真も)

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