
2022年2月のロシアによるウクライナへの軍事侵攻以降、日本政府によるロシアとの北方領土交渉は遅々として進まない。それでも北方領土を抱える北海道では領土返還に向けた啓発普及活動や元島民2世、3世を中心とした若手人材育成が広がりを見せ、北方四島返還実現への地道で着実な活動が繰り広げられている。
(札幌支局・湯浅 肇、写真も)
「こちらのパンフレットも読んでみてください」。2月2日から25日までの間、地下鉄札幌駅と大通公園駅をつなぐ地下歩行空間の一角に設置された北方領土啓発ブースで常駐するスタッフが一枚一枚パンフレットを配っている。ブース内には昨年行われた洋上慰霊の動画やこれまでの北方領土問題の取組、北方領土に隣接する根室管内1市4町村の魅力を紹介したコーナーが設けられ、担当者が見学者に一つひとつ丁寧に説明していく。
ブースは北海道北方領土対策本部が企画したもの。同本部の千葉真一郎課長補佐は「道では2月7日の『北方領土の日』を中心とした1月21日から2月20日までを『北方領土の日』特別啓発期間と定めているが、この期間に合わせ、多くの皆様に北方領土問題について理解を深めてもらう北方領土啓発ブースを設置している」と語る。
ところで、コーナーの一つとなっている洋上慰霊とは、2022年8月から始まった事業で北方四島交流船「えとぴりか」の船上から島に眠る元島民の先祖を供養するというもの。1968年から人道主義の立場から北方墓参という形で行われていた。中断する期間はあったものの、これまで墓参は四島へ上陸して行われていた。それが新型コロナウイルスの感染拡大、さらにロシアによるウクライナ侵攻の影響で北方四島との交流事業が中断、島に上陸しての北方墓参も叶わず、せめて洋上からでも供養したいという元島民の願いを洋上慰霊という形で行っている。
一方、北方領土対策本部が取り組んできた事業の一つに高校生による啓発活動がある。同対策本部根室地域本部が同管内の高校生を対象にした21年度から23年度までの企画事業で、「北方領土プロジェクト“N”」と呼ばれている。趣旨は、北方領土に隣接する根室管内の高校生が率先して領土問題に関心と興味をもってもらうため、高校生が自ら企画し、啓発活動を行う機会の提供と支援を行ってきた。ちなみに、“N”とは根室(Nemuro)で、次世代(Next Generation)が、北方領土(Northern territories)について取り組む事業の頭文字に由来する。

具体的には、根室管内にある6校の高校で関心のある生徒たちが、オンラインなどで一堂に会し、北方領土返還の機運を高める企画づくりや地域の関心を高める基盤づくりを行っていくことをスローガンに積極的に活動を展開。
北方領土返還運動の強調月間となっている昨年8月下旬には、「北方領土プロジェクト“N”」に参加している根室管内の高校生4人が札幌を訪れた。札幌駅南口駅前広場での署名活動や札幌市内の高校生との交流会、また、同月25日に行われた北方領土返還要求北海道・東北国民大会での街頭行進に参加するなど北方領土返還運動の啓発運動を体験した。領土返還要求の街頭行進に根室管内の高校生が参加するのは初めてのことであり、北方領土返還運動への意識を高める場となった。こうした領土返還運動と教育分野との連携は郷土への理解、広域的な連携を深める視点からも有効な人材育成ともいえる。

北方領土対策本部はこの他に、北方領土「中学生の声」発信事業の一つとして、道内中学生を参加対象とし、北方領土『中学生作文コンテスト』を2016年度から企画。また、22年度から北方領土動画コンテストを実施。こちらのコンテストは道内外の小学5年生から一般人を対象としている。23年度の中学作文コンテストには道内14校259作品が寄せられた。
ロシアのウクライナ軍事侵攻に西側先進諸国はロシアを非難し、経済制裁を加え続けているが、ロシアも頑なな姿勢を崩していない。そのしわ寄せが北方領土問題にもろに影響を与える形になっているが、何よりも地元の地道な取り組みが今こそ望まれていることは間違いない。