
岸田文雄首相は昨年5月のG7広島サミット(先進国首脳会議)を成功させたが、それ以来、政権の求心力は低下の一途、国民の間に政治不信が蔓延(まんえん)している。岸田首相にとって今年は正念場の年になる。
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首相は昨年9月に内閣再改造を行った上に、来年度の所得税減税を打ち出したものの支持率は下がった。追い打ちをかけるように、12月になると、自民党派閥のパーティー券収入のキックバックと収支報告書への不記載が明るみに出た。
首相は安倍派の松野博一官房長官ら4閣僚と副大臣5人全員を交代させたが、支持率下落に歯止めがかからない。問題は、パーティー券収入の不記載で終わらない。派閥のあり方や、政策活動費を含めた政治とカネを巡る構造的な問題にどこまで踏み込むのか。
首相は昨年12月18日、政治資金規正法改正について記者団に問われ、「そういった選択肢も決して否定するものではない」と答えた。首相の近くからは「何をどうしたいのか分からない」と不満が漏れ伝わる。
自民党政務調査会の調査役を務めた政治評論家の田村重信氏は、「政治資金規正法を改正するだけでなく、収支報告が不要の政務調査費についてもルールを明確にして、国民の信頼を取り戻すことを優先すべきだ」と指摘する。
低調な内閣支持率の影響は予算編成にも及んだ。1月に召集される通常国会では、政治資金規正法の厳罰化や不正防止策など、政治とカネを巡る「政治改革」が主な論点となるだろう。
政治改革は野党が足並みをそろえやすいテーマだけに、昨年不調だった野党連携が高まるとの予測も出ている。それでも野党連携の道のりは厳しい。日本維新の会は共産党との連携を辞さない立憲民主党との連携は拒否する方針。国民民主党と立民との溝も埋まっていない。選挙協力にまでつなげられるかは見通せない状況が続いている。
自民の連立パートナー、公明党との間にも隙間風が吹く。公明の山口那津男代表は昨年12月、パーティー券問題を巡り「同じ穴のムジナとは見られたくない」とSNSで発信し、公然と自民を批判した。
今や岸田内閣は「店じまい内閣」と揶揄(やゆ)されている。「3月に予算案が成立したら退陣」との予測も浮上。4月の国政の補欠選挙が一つの区切りとなるか。9月の総裁任期ギリギリまでやって、新しい顔で刷新イメージを出し、解散するのがベストだと言う声もある。
解散総選挙の時期は予想がつきにくい。パーティー券問題で自民が国民の信頼を一定程度回復してからでなければ難しいというのが大方の見方だ。
一方、首相は今年9月に1期目の自民党総裁任期の満了を迎える。「岸田降ろし」が起きない状況で、解散しないまま総裁選に出馬すれば、岸田氏が再選する可能性も否定できない。
保守支持者らの間には高市早苗経済安保相の待望論がある。政治評論家の高橋利行氏は、「無派閥だとまとまった支持を得るのが難しい。安倍派に復帰することが前提だが、今のままでは岸田首相との対決に勝てる可能性は少ない」と指摘。これに対し、首相と同じ岸田派の上川陽子外相の方が支持を集めやすく、女性初の首相待望論の追い風を受けやすいとみる。
各種世論調査で「次期首相候補」の常連、小泉進次郎元環境相、石破茂元幹事長、河野太郎行革担当相の、いわゆる「小石河」でも、各派がまとまる見込みは低い。ただ、世論の派閥への反感から、「小泉、石破の両氏は国民の理解を得られるのではないか」と、前述の田村氏は分析する。
(豊田 剛)





