【危険水域に入った岸田政権 支持率最低更新の背景】(下) 世論迎合の解散命令請求

創価学会の池田大作名誉会長=2008年5月、東京 都千代田区

「池田大作氏の御逝去の報に接し、深い悲しみにたえません」。創価学会の池田大作名誉会長の訃報を受け、岸田文雄首相は18日、「内閣総理大臣 岸田文雄」名義でソーシャルメディアのX(旧ツイッター)に投稿、最大限の敬意で弔意を示した。さらに翌19日、広島県での義父の葬儀を終えると、創価学会本部別館に池田氏の弔問に訪れた。ネット上では「なぜ創価だけ特別扱い?」「票欲しさにあからさまな創価学会詣で」と批判的な声が相次いでいる。

【危険水域に入った岸田政権 支持率最低更新の背景】(中)内閣改造と減税策の誤算

岸田氏の行動は、連立パートナー・公明党に配慮したものであることを国民はお見通しだ。精神的支柱を失った党勢退潮傾向に拍車が掛かることは必至で、自民の集票への影響は避けられない。

今年の岸田政権の支持率のピークは5月のG7広島サミット。サミット開催に間に合うようLGBT理解増進法案を成立させたのは、米国のエマニュエル大使と共に公明の強い影響によるものだった。

山口那津男代表は、「G7(主要7カ国)で日本だけが何らの制度を持っていないという現状を変えていく必要がある」と述べるなど、自民党に法案成立を迫った。岸田氏は、法案の成立を先送りすれば自公の亀裂が深まりかねないと判断し、党内の反対意見に耳を貸すことはなかった。

公明に忖度(そんたく)し「聞く力」を発揮した結果、自公の結束が強まるどころか、自民の岩盤支持層を失い、その後の国政補選と地方選で自民候補が相次いで敗北。支持率暴落の引き金となった。

作家の百田尚樹氏らが10月、日本保守党を立ち上げると、LGBT法に反発した保守層の受け皿となり、Xのフォロワー数は瞬く間に自民党を抜いた。大きなムーブメントを造成している。

その前にも、岸田政権の支持率を下げた要因がある。2022年7月の安倍氏の銃撃事件だ。事件後、犯人の動機に関心が集まり、容疑者の家族と世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と安倍氏を含む自民党との関係がクローズアップされることになった。岸田氏は所属議員に対し、旧統一教会と接点を持たないよう指示を徹底した。野党やマスコミに追及された上での苦肉の策だが、これが政権にプラスになることはなかった。

 むしろ旧統一教会への解散命令請求に動かざるを得なくなった岸田氏は、宗教法人法が定める解散命令の要件「法令に違反」の法令は「刑法等」に限るという閣議決定までした政府の法解釈を一夜にして変更し、「民法上の不法行為も入りうる」として手続きを推し進めた。

そもそも、旧統一教会は教団幹部が刑事事件を犯したこともなく、2009年のコンプライアンス宣言以降、高額献金を巡る訴訟も激減している。解散請求命令に該当する「違法行為の悪質性・組織性・継続性」があるとは言い難い。

「解散命令請求は憲法違反に抵触しかねない。やめた方がいい」。岸田氏に近い有識者の助言に対して、岸田氏は「世論が許さないから」と聞く耳を持たなかったとされる。極めて不明朗な手続で法解釈を変更してまでも世論に迎合し、人気取りに走っている証左だ。「LGBT理解増進法案にしても旧統一教会問題にしても、実は岸田首相はやると決めたら頑固なところがあり、自身に都合の悪い話には聞く耳を持たない」。首相をよく知る人物はこう評する。見識、哲学、信念が伴わない「聞く力」の限界なのだろう。

多かれ少なかれ宗教団体には献金要請や宗教2世問題は付き物だ。旧統一教会と創価学会では何が違うのか。教勢や政治力の大小、世論の風向きでその対応が変わっては「ダブルスタンダード」とのそしりは免れない。首相が宗教指導者に弔意を示すことでこれだけのバッシングを受ける風潮は、岸田氏自らが作ってしまったことを自覚すべきだろう。(政権検証取材班)

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