ふるさとの木による森を
家族連れやボランティア参加

東京都八王子市の「都立高尾陣場自然公園」の中に、森林再生活動が行われているエリアがある。JR高尾駅から小仏行きのバスに乗って終点で下車し、15分ほど小仏峠に向かって登ったところ。道路脇に植樹祭の記録が表示されているが、それがなければ見過ごしてしまいそうだ。少し下ったところに景信山(かげのぶやま)への登山口がある。
ここは中央自動車道小仏トンネルの工事の残土の盛り土場で、50年以上が経過して、クズやニセアカシアの茂る荒廃地だった。NPO法人国際ふるさとの森づくり協会(レナフォ)の主催で植樹による森づくりが始まったのは2017年。それ以来、植樹祭が毎年行われ、今年10月15日に「高尾小仏植樹祭2023」として7回目が開かれた。
植樹は今回が最後で用意された苗木は2300本。参加者は210人。植えた苗木は合計2万2000本。これからも草刈りや補植は必要なのだ。
午前中降っていた雨はやんで、開会式が始まる昼には青空が広がっていた。レナフォの高橋秀行理事長があいさつ。過去の経過を伝え、「土の中はミミズが耕し、サルやシカがこの場の成長を見守っています。ずり山が生物多様性の山になりますように」と語って、始めに植えた木々は5㍍以上に育っていると伝えた。
参加者は家族連れやボランティアグループなどさまざま。八つの班に分かれて、現場に向かった。尾根の上にはポットで育てられた苗木や、植樹後に土を覆うワラ束や縄が用意されていた。
トレイに入ったポット苗は、一度水につけて浸し、空気を抜いて使う。根付きやすくする。それぞれシャベルを手に分散していく。移動は、上下は階段を使い、横には丸太に沿って進む。人が多いので交通ルールも必要だ。斜面は丸太で土留めがしてあり、丸太の下には杭(くい)が打ってある。地表面の幅は約1㍍。ここに植えていくのだが、1㍍四方に植える苗は2本から3本で、同じ種類の木を隣り合わせにしない。
シャベルで土を掘った後、苗木は根が土と分離しないようにそっと外し、深植えにならないよう土を戻していく。根元が隠れたら両手で土を押さえる。作業にはきめ細かな注意が与えられた。
「ふるさとの木を混ぜて、植える」は、植物生態学者の故宮脇昭氏の指導によるもの。ふるさとの高木、亜高木、低木など照葉樹を混ぜて植える。用意された苗木はアカガシ、タブノキ、イロハモミジ、ヤマザクラなどだった。
ここから北に見える尾根は、景信山に続き、今年の春、登ってみたが、北斜面に昔、植林した場所が広がっていた。スギやヒノキで、植生は乏しかった。宮脇昭氏の森づくりは、これとは違って、多様性に富んだ安定した森を目指している。環境保全機能を果たし、多くの動植物が生存繁殖できる空間を作ろうというのだ。
苗を植え終わると、土が見えなくなるまで藁(わら)を敷き詰めた。さらに竹杭を支点に藁の上にジグザグに縄をかけ、結んで完成。藁は土の乾燥防止、また雨による土砂崩れを防ぎ、防寒の役割もする。最後は肥料になるという。
イベントの最初と最後はミニコンサートで、シンガー・ソングライターのいまむら瞭さん、女優の溝端育和(やすな)さん、アルパ(ハープ)の今村夏海さんが、森をテーマにした曲を披露してくれた。
(増子耕一、写真も)