22日に投開票された衆参補選で自民党は2議席を維持できなかった。衆院長崎4区と参院徳島・高知選挙区はいずれも自民が強い地域だ。長崎では辛うじて議席を確保したものの、徳島・高知では野党統一候補に大差で敗れた。さらに、歴史的な投票率の低さは政治不信の表れとも言える。こうした中、岸田文雄首相はいつ衆院解散を打ち出すのか、不透明さが増している。(政治部・豊田 剛、写真も)
「地方と東京、どちらも(岸田政権に)厳しいことがはっきりした。内閣改造をしても(支持率は)上向かない。年内はもちろん、年が明けてもしばらく解散総選挙はできないのではないか」――。今月の地方選や衆参補選の結果から、政治評論家の田村重信氏はこのように分析した。
4日に岸田政権は発足から2年を迎え、30日には4年ある衆院議員任期の折り返し地点に達する。このタイミングでの衆参補選は、岸田政権の“中間テスト”の意味合いもあったが、合格点に届いたとは言い難い。
選挙結果を受け、茂木敏充幹事長は「長崎で勝ったのは大きい。2補選とも厳しい戦いになると思っていた」と安堵(あんど)したという。ある自民党関係者は「結果的には1勝1敗だが、実質的な敗北だ」と認めた。
首相は9月に内閣改造・自民党役員人事を行って政権浮揚を図った。その上で衆参補選に、自民は「2戦全勝」での議席維持を目指して、首相のほか、茂木幹事長、小渕優子選挙対策委員長ら党幹部が続けざまに現地入りした。
新人候補を落とした徳島・高知は保守地盤だ。岸田首相(自民党総裁)と公明党の山口那津男代表は14日、両県の演説会で、並んで応援演説した。岸田氏は、「(山口氏と)共に同じ舞台に上ってマイクを持つことは極めてまれなこと」と強調した。現場には重苦しい雰囲気が流れており、「首相が来てもプラスにならない」と選対幹部は顔をしかめた。
結果は自民候補14万2036票で、23万3250票を獲得した野党候補に完敗した。昨年参院選で自民候補は28万7609票で当選し、得票率は52・8%。今回の補選では37・8%と大幅にダウンした。
また歴史的な投票率の低さは、内閣支持率の低さに加えて政治不信の表れだ。徳島・高知選挙区の投票率は32・16%。そのうち、候補者を出さなかった徳島県は23・92%(22年比21・80ポイント減)と過去最低を記録した。
地方選でも自民は苦戦続きだ。15日に行われた東京都議補選・立川市選挙区の補選では、地域政党・都民ファーストの会と立民の候補が当選。公明が自主投票を決めた影響もあって、自民候補は落選の憂き目にあった。
22日行われた埼玉県所沢市長選では、4選を目指した自公推薦の現職が元民主党衆院議員だった無所属新人に敗れる波乱があった。また同日の宮城県議選では、主要政党の中で唯一、自民が議席を減らした。
いずれの選挙でも、一定の自民党支持者が「今回は自民にお灸(きゅう)を据えたい」と他党に投票または棄権したとみられる。仙台市在住の60代の自民党員の男性は、「LGBT理解増進法に失望した。保守政党としての矜持(きょうじ)を失った自民に投票するわけにはいかない」と話した。
20日には臨時国会が召集された。その際、岸田首相は国民への還元策として、所得減税を検討するよう与党に指示したとされる。補選の2日前とあって、与野党から「露骨な選挙対策」と不評を買った。打ち出すタイミング一つを取っても首相批判がやまない。
首相は26日、所得税などを1人当たり定額で4万円減税すると言明し、低所得者世帯には7万円を給付する方針。ただ、減税には来年の通常国会で関連法案を可決する必要があり、国民がその恩恵を実感できるのは早くても8カ月後だ。
岸田政権が発足して以来、各世論調査の支持率は軒並み過去最低を記録している。今年5月には、先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)の議長を務めた効果もあり支持率は一時的に上がったが、それ以降は右肩下がりだ。当面、支持率回復を見込める材料に乏しく、年内解散を打ち出すにはリスクが伴う。
今の政治状況は2021年4月に似ている。菅義偉前首相は三つの衆参補選で不戦敗を含めて全敗し、衆院解散を決断できないまま6カ月後に退陣に追い込まれた。岸田首相で次の総選挙を戦えるのか、疑問視する声が各地から漏れ伝わってくる。