能登の秋を代表する神事
久麻加夫都阿良加志比古神社 渡来文化を色濃く伝える

石川県能登半島の秋を代表する「お熊甲(くまかぶと)祭」(国指定重要無形民俗文化財)が、9月20日、七尾市中島町で盛大に繰り広げられた。同町に鎮座する久麻加夫都阿良加志比古(くまかぶとあらかしひこ)神社の秋の祭礼で、五穀豊穣(ほうじょう)を願い、「熊甲二十日祭」の名でも親しまれている。また渡来文化の影響を色濃く伝える祭りとして今に伝わっている。
コロナ禍と台風の影響で、この3年間は神事のみが執り行われたが、今年は4年ぶりの通常開催となった。この祭りは同神社を総社と仰ぐ近郷19地区の末社の寄り合い祭りで、各神社から神輿(みこし)と枠旗(わくはた)が繰り出す。枠旗はラシャ地に深紅で、高さ約16㍍あり、40人余りの屈強な男衆が担いで宮入する。本来は末社が全部参加するが、近年は担ぎ手の減少もあり、今回は5末社が欠席した。
同地区の東端に位置し、七尾西湾に面する瀬嵐(せあらし)の集落では、前日に枠旗が神輿とともに準備され、当日は午前6時過ぎ、桟橋を出発した。これまで2艘(そう)の舟を仕立てて2台で神輿と枠旗、祭りを先導する猿田彦らを乗せて熊木川をさかのぼっていたが、今年から洋上の安全対策のため、枠旗と神輿は車で運ぶことになり、舟で川を渡る風景が見られなくなった。

熊木川にかかる橋の上で、一行を待ち構えていた年配のカメラマン氏は「舟で運ぶ枠旗は絵(写真)になったんだけどなあ、残念やね」と惜しんでいた。一行は河口から1㌔ほどさかのぼり、国道249号の橋のたもとで陸に上がり、9時頃に隊列を整えて4㌔ほど先の熊甲神社まで運ばれた。
10時半頃になると、神社の境内と周辺の県道23号線には、各末社から集まった枠旗が林立し、鉦(かね)や太鼓が鳴り響いた。拝観の順番は1週間ほど前に「しらい」と呼ばれるくじ引きで決まる。
今年は全19末社のうち、14末社の神輿14基と枠旗13本が集まった。秋空を背景に、枠旗が林立する様は壮観そのものだ。各神輿と枠旗は「ワッショ、ワッショ」の威勢の良い掛け声とともに、拝殿目がけて駆け込む「差し上げ」がそれぞれ3回ずつ繰り返され、その度に境内を埋めた見物客から盛大な拍手が起こった。なお、お熊甲祭は「熊甲二十日祭の枠旗行事」として1981年に国の重要無形民俗文化財に指定されている。
長い社名が示す通り、古代朝鮮との関わりが指摘されており、以前、韓国の祭りを視察した同町文化財保護委員の橋本佐輔さん(故人)は、「全く同じ祭りは韓国では見なかったが、猿田彦の鳥甲が赤や緑、黒など鮮やかな原色が使われ、韓国の仏閣に似た色合いで、改めて異国情緒を感じる」と振り返っていた。同神社周辺はかつて熊木郷と呼ばれ、万葉集にも登場し、歴史は古い。また、熊甲神社の祭神は韓服を着ており、朝鮮半島からの渡来神といわれている。
(日下一彦、写真も)