
岸田文雄首相は新内閣発足後の記者会見で、「大胆な経済対策を実行する」と表明、来月中に取りまとめる考えを明らかにした。物価高による個人消費の落ち込みを防ぐためだ。
今年の春闘では30年ぶりに高い水準での賃上げが実現したが、それ以上に物価が高騰しているため、実質賃金は16カ月連続でマイナス。消費の落ち込みが目立つようになってきた。
7月の家計調査によると、1世帯当たりの消費支出は物価変動の影響を除いた実質で前年同月比5・0%減少。マイナスは5カ月連続で、物価高を背景に節約志向が強まっており、減少幅は2021年2月(6・5%減)以来の大きさだ。
落ち込みは消費ばかりではない。4~6月期の国内総生産(GDP)では、内需のもう一つの柱である設備投資が、利上げの継続による海外経済の減速から伸びがマイナスに転じ、内需の弱さが浮き彫りになっている。物価高の継続が海外経済の減速とともに日本経済の先行きに不透明感をもたらしているのだ。
現在、伝えられる経済対策は、①物価高への対応②構造的な賃上げと投資拡大③デジタル技術の活用など人口減少を乗り越えるための社会変革④災害対策――が柱だが、喫緊の対策は何と言っても、①と②だろう。財源の裏付けに23年度補正予算案を組むだけに、対策は対象を絞り、効果的に実施すべきだ。
物価高対応では、年末まで延長が決まっているガソリン補助金を、電気・ガス料金に対する支援と合わせて年明け以降も継続することが検討に挙がっている。
補助金や支援は本来なら段階的な削減・終了が望ましいが、エネルギー資源のほとんどを輸入に頼らざるを得ない日本では、円安傾向が続いているだけに国民の負担軽減上、やむを得まい。ガソリン代や電気・ガス料金の値上がりは製品の輸送費や製造コストに跳ね返り、ひいては家計の大きな圧迫要因になるからだ。
食品の値上げ品目数に見られる異常な物価高は、8月から前年を下回るなど収まりそうな状況だが、最近の1㌦=147円台を前後する円安傾向が続く状況から、予断は禁物だろう。輸入小麦が10月期から4月期と比べて11%引き下げられることは朗報だが、過度な円安進行に当たっては、財務省が断固たる措置を取ることや日銀との協力も必要だろう。
これら物価高対応が消費をはじめとする内需への圧迫要因の軽減なら、②は内需の強化策である。デフレ経済からの脱却には賃上げを起点とした好循環の形成が欠かせない。
幸い、今年は高い賃上げ率が実現したが、好循環形成には持続的な賃上げ、岸田首相の言う構造的な賃上げが必要であり、企業に対して実現に向けた補助金や優遇税制などのインセンティブを設けることが重要だ。経済界からも「長年続いたデフレから完全に脱却し、力強い経済成長を実現できるかどうかの瀬戸際だ」(十倉雅和経団連会長)として産業競争力の強化などに取り組むよう求めた。日本経済は大きな岐路に立っている。(床井明男)