祈雨と止雨とを司るカミたち
埼玉県飯能市にある多峯主山(とうのすやま)(271㍍)は、隣の天覧山(てんらんざん)(195㍍)と共に、家族のハイキングにちょうどいい山。多峯主山からは360度の眺望が開け、麓の高麗駅方面も富士山もよく見える。
この頂上直下にあるのが雨乞池(写真)だ。見返り坂から登っていくと、突然、広い平地にたどり着き、そこに池があった。ほとりに四阿(あずまや)もある。
前方を見上げると林で、その先が稜線(りょうせん)らしい。池の右からも、左からも稜線への道があり、どれが頂上への道か分かりにくい。頂上は右手にあったが、池の周りの幾つもの道は、ここに大勢の人々がやってきて、祭りが行われたことを物語っている。
池の水は枯れたことがないという。雨をつかさどるタカオカミ、クラオカミが上手に祀(まつ)られていて、2柱は祈雨と止雨とをつかさどり、田畑の作物が枯れると麓の村人が集って賑(にぎ)やかな祭りをしたという。
雨は神からの贈り物で、世界各地の文化圏で、古代から雨乞いの儀式が行われてきた。日本でも芸能を捧(ささ)げたり、大騒ぎをしたりする形態は各地にみられた。多峯主山での雨乞いは、水をかき混ぜて濁したり、鼻をつまんで息を止め池を7周する、というもの。そのように騒いで水神を怒らせ、雨を降らせようとしたというのだ。
今年の夏は40度を超える町が各地にあった。梅雨に雨が降らず、夏に高温で空気が乾燥すると、作物は育たなくなる。今日、雨乞いの話は聞かないが、この気候変動、異常気象は、人の力ではいかんともし難いもの。天に祈った人々の素直な心は、失いたくはない。
(増子耕一、写真も)