縄文の造形 1万年の魅力が満載
と、北海道の国宝第1号「中空土偶」(同左).jpg)
狩猟や漁労、採集を生業(なりわい)としながら1万年以上にわたる定住生活が存続したとされる縄文時代。北海道・北東北の縄文遺跡群が2021年7月27日、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界文化遺産に登録された。このことを記念して北海道博物館は7月22日から10月1日まで、特別企画展「北の縄文世界と国宝」を開催している。開催日前日の21日、同館では報道陣向けに展示説明会を行い、開催の意義と見どころを説明した。(札幌支局・湯朝肇)
北海道・東北3県の遺跡群紹介
狩猟や漁労、採集で豊かな生活
「わが国の縄文文化は世界各地の先史文化と比べても稀有(けう)な文化。とりわけ、北海道と青森・秋田・岩手の北東北3県は数多くの遺跡があるばかりでなく、1万年以上にわたり縄文時代早期から晩期にわたり特有の文化が繁栄していました。世界文化遺産として認められたそれらの遺跡群の価値や縄文人の精神性あるいは彼らが有する美の世界について注目してもらえればと思います」――こう語るのは今回の特別企画展を担当したスタッフの一人である北海道縄文世界遺産推進室の阿部千春氏。

今回の特別企画展は単に縄文時代の遺物を並べた展示会ではない。一つはその豪華さである。北海道で初めて国宝となった中空土偶や全道各地の遺跡を紹介するだけでなく、青森県八戸市に所蔵されている合掌土偶や新潟県十日町から出た火焔型土器など全国各地で出土した縄文時代の遺物国宝8件28点、重要文化財38点を含む480点余りが展示されている。
それらが一堂に会して展示されるのは珍しい。加えて、世界文化遺産に指定された北海道・北東北3県の遺跡群の代表的な土器や石器が並び、当時の縄文人の暮らしぶりを垣間見ることができるのは極めて意義深いといえる。
会場は、①縄文~その心と美②世界遺産「北海道・北東北の縄文遺跡群」の価値③世界遺産とは④縄文文化を未来へ――の四つのブースから成っており、縄文時代に関する国宝の遺物の数々を直(じか)に見ることができる展示になっている。とりわけ「縄文~その心と美」のブースでは北海道の国宝第1号の中空土偶や火焔型土器が、その存在感を示している。
同博物館の学芸員の鈴木琢也氏は「火焔型土器はとても複雑で芸術的な模様が施されている土器だが、よく見ると食材を煮込んだ跡があるのが分かる。このような美的にも優れたものが生活の中で使われているのを見ると縄文人の豊かな精神性を窺(うかが)い知ることができる」と説明する。
また、今回の展示では単に遺物を並べるだけでなく、これまで遺跡発掘に携わってきたボランティアの人たちや、その土地の所有者にも焦点を当て世界遺産を支える人々も紹介している。世界文化遺産にも指定され世界最大級の周堤墓を形成している千歳市のキウス周堤墓の土地所有者である鈴木昭廣さんは「自分は考古学の専門家ではない」としながらも、千歳市と連携、自ら周堤墓のジオラマを製作するなど、積極的に関わり、遺跡の維持・管理を担う。この他にも特別展では、縄文時代の区分ではないが今年6月27日に北海道の国宝第2号に指定された遠軽町の大型尖頭(せんとう)器(黒曜石を加工して尖〈とが〉らせた槍〈やり〉の先に装着する狩りの道具)も展示されている。
今回の特別企画展について同館の石森秀三館長は「展示会を開催する過程で予算の問題、専門家の確保、さらには各地の博物館や教育委員会との連携、運搬方法などさまざまな課題があった。それらの問題をクリアしながら開催にこぎ着けたことは率直に嬉(うれ)しい。特別展には縄文文化に関心のある方だけでなく、小中高生など若い人に来館してほしい」と語る。
北海道は歴史が浅いといわれてきたが、先史時代1万年以上にわたって豊かな生活を送っていた人々がいたことが分かる特別展。貴重な土器や石器の数々を直に見ながら当時の様子を知ることは一つのロマンともいえよう。なお、同館の休館日は月曜日(ただ、9月18日は開館で翌19日が休館)、開館時間は午前9時半から午後5時まで(入館は午後4時半まで)。観覧料は一般(高校生以上)1600円、小中学生800円。詳しいことは同博物館公式ホームページを参照。