「ジェンダーレストイレ」の“失敗” 理念先行 女性の不安軽視

男女分ける改修迫られる 東急歌舞伎町タワー

性別に関係なく使える「ジェンダーレストイレ」を設置したものの「女性が安心して使えない」と、抗議が殺到していた複合施設「東急歌舞伎町タワー」(東京都新宿区)がこのほど、改修工事を終えて男女別トイレに変えた。施設開業から4カ月。ジェンダーレストイレの“失敗”は、LGBT(性的少数者)対応に貴重な教訓を残した。(森田清策、写真も)

2カ月半ぶりに訪れた東急歌舞伎町タワー(地上48階、地下5階)2階のトイレは大きく変わっていた。個室が並んでいたスペースには、女性用と男性用を隔てる壁が設けられていた。入り口に四つ並んでいたピクトグラムは男女と障害者を表す三つに。消えたのはトランスジェンダー(体と心の性が一致しない人)の記号だった。

ホテルと娯楽の複合施設の同タワーが開業したのは今年4月(ホテルは5月開業)。当時、飲食店が集まる2階のトイレは「ジェンダーレストイレ」を標榜(ひょうぼう)、左に男性用の小便器のあるスペースと、右に個室が並ぶスペースに分かれていた。個室は、性別に関係なく使えるジェンダーレスが8、女性用2、男性用2、多目的1がコの字に並び、中央には共有の手洗い場を配置する設計だった。

これに対して、女性用が少ないことや、男性が女性用個室前にも立ち入ることができるため女性からは「安心して使えない」という苦情が殺到。男性からも「女性がいて使いづらい」との声も少なくなかった。このため、施設側はジェンダーレスを2に減らして女性用8にする改善措置を取るとともに、共用部分を防犯カメラで監視。さらには警備員を巡回させるなどの保安対策を取った。

それでもSNS(交流サイト)では批判は収まらなかった。5月中旬には女性用の個室をその他の個室と分ける間仕切りを設置した。その時点では、「改修して壁を設置し、女性用スペースを造るのか」との本紙の質問に、施設側は「未定」と答えていた。

だが、「お客様にさらに安心して快適にご利用できるトイレを目指」すとして、先月24日に壁設置の改修工事に着手、今月3日に終了した。結局、ジェンダーレストイレは廃止され、個室は女性7、男性用3、多目的2に変わった。ジェンダーレストイレ廃止を受け、X(旧ツイッター)では「はじめから失敗は分かっていた」と、施設側の計画そのものに疑問を呈する声がほとんど。そもそもジェンダーレストイレが導入されたのはなぜなのか。

施設側は「国連の持続可能な開発目標(SDGs)の理念でもある『誰一人取り残さない』ことに配慮し、新宿歌舞伎町の多様性を容認する街づくりから、設置導入した」としている。つまり体の性と心の性の違うトランスジェンダー当事者への配慮だったというのだ。

これに対しても、「男女別トイレのほうがはるかにSDGs」「机上の空論に振り回されるべきではない」と批判の書き込みが並ぶ。「誰一人取り残さない」というのは美しいが、トイレ使用における安全・安心を求める女性の心理を軽視する一方、LGBT活動家やマスメディアの影響を受け、トランスジェンダー配慮に偏ったと受け取られても仕方がないデータがある。

東京都人権部が昨年3月に公表した「性自認及び性的指向に関する調査」。これによると、トランスジェンダーの割合は全体の0・6%。当事者にトイレや更衣室の利用で望む性で施設を利用できないという困難経験を尋ねると、「とても困難を感じた」「困難を感じた」と回答した割合は5・1%だった。当事者はトイレ使用で困っていると思われがちだが、意外に少ないことが分かる。

このデータを見ると、「誰一人取り残さない」という理念を掲げたとしても、多目的の個室トイレ一つ増すだけで十分だったと言える。それでもジェンダーレスにこだわり新しい概念を押し付ける形となって、逆に企業イメージを毀損(きそん)する結果を招いたことについては、Xでは「一部のトランスジェンダーの話しかきかず、女性の話を聞かないからこういうことになった」「これがLGBT活動家の言いなりだった企業の末路」など、同タワーがマジョリティーの反応を読み間違えた背景には、活動家の影響があったと指摘する書き込みが少なくない。あながち的外れではないだろう。

問題の質は違うが、トランスジェンダー重視を打ち出し企業イメージアップを図ろうとして失敗した例は“LGBT先進国”の米国でも起きている。日本でも知られるビール「バドワイザー」を生産する大手アンハイザー・ブッシュ社。今年春、自社ブランド「バドライト」の宣伝にトランスジェンダーのインフルエンサーを起用したが、保守派の反発を買い売り上げが激減。売り上げ首位の座から陥落する事態を招いている。

米国の後を追うようにLGBT運動が活発となっている日本では、ジェンダーレストイレが地方にも広がっている。一方、6月に施行されたLGBT理解増進法は政府の基本計画や指針の策定にあたっては「全ての国民が安心して生活できるよう留意する」との留意条項が付け加わった。アクセルとブレーキを同時に踏むような法律になったのは、女性スペースに身体男性が入ることなどに対し不安を抱く世論の高まりに、与党幹部が法案採決の間際になって気付いたためだろう。

東急歌舞伎町タワーのジェンダーレストイレの失敗は、当事者側に偏って安心・安全を求める世論への配慮を怠ることの代償の大きさを教訓として残した。

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