江戸3大ペット 猫・犬・金魚
馬や猿、舶来の象、孔雀など140点
人の暮らしのパートナー
石川県七尾市の県七尾美術館では「絵師も動物も、人気モノ勢揃い 動物たちの浮世絵展」が開催中だ。江戸の人々に親しまれた浮世絵には、しばしば動物たちが登場する。江戸時代の3大ペットの猫、犬、金魚をはじめ、人と共に働く馬や猿から、舶来(はくらい)の象、孔雀(くじゃく)、オウム、そして空想の珍獣まで、約140点が並び、来館者を楽しませてくれる。
時代は幕末から明治期で、当時の人々に親しまれた浮世絵には、しばしば動物たちが登場する。「まさに浮世絵でみる動物図鑑です」とは、同館学芸員の北原洋子さんの説明だ。描いたのは歌麿、広重、北斎から歌川豊国、国貞、国芳、月岡芳年など誰もが知る人気絵師ばかり。
作品は全て、国際浮世絵学会の中右瑛常任理事の所蔵で、鑑賞の手引きとなるよう五つのパーツに分かれている。まず1章《暮らしの動物たち》では江戸中期から明治初期までの作品が並ぶ。愛玩動物の人気モノは猫、犬、金魚で、猫は今と変わらずいたずら好きで、自由気ままな姿が人々の心を捉えた。犬は国産犬の狆(ちん)から異人さんに連れられる西洋犬まで登場。
作品の中で1点、興味深い作品があった。絵師の月岡芳年の「風俗三十二相うるささう」で、明治21(1888)年に描かれ、説明では猫が娘に抱きつかれて「うるさそう」な表情を浮かべている。裕福な商家の娘らしく「猫の首輪は、娘の襦袢(じゅばん)とそろいで作られており、とても大事に飼われていることが分かります」と北原さん。
猫の表情は一見迷惑そうで、こんな筆致を見ると、筆者自身、かなり猫をかわいがっていた様子が連想されほほ笑ましい。また、別の絵には金魚売りも登場するが、当時はそれが下級武士のサイドビジネスだったというから驚きだ。
2章《働く動物たち》では、馬や牛の絵から暮らしの移り変わりがうかがえる。戦国時代の馬は命を託す戦友、太平の世になると荷運び、牛は農家の大事な働き手、猿は旅芸人と共存共栄の稼ぎ手だった。まさに、動物は人の暮らしに欠かせないパートナーだった。
3章《空想の動物たち》は、戯画、風刺画、妖怪絵、擬人化された作品で、人物や事象を面白おかしく、比喩的に描いた戯画、妖怪絵、擬人画。説話などに登場する狐(きつね)と狸(たぬき)、妖術使いがイリュージョンで生み出したガマや大蛇、安政江戸地震では地震除けに「なまず絵」が大流行した様子が分かる。
4章《舶来の動物たち》では、象や駱駝が描かれている。本来は日本に生息しない動物を浮世絵で見た当時の人たちは、空想の珍獣が実在したと驚いたかもしれない。開港した横浜には、象や虎、駱駝(らくだ)が運ばれ、珍しい動物を見れば「御利益が得られる」とうわさされるほどで、見世物が賑(にぎ)わい、舶来の動物たちを描いた浮世絵が飛ぶように売れた。
5章《肉筆画》では、肉筆浮世絵を集めて展示している。江戸時代に成立した浮世絵のジャンルの一つで、錦絵と呼ばれる浮世絵版画と区別して、浮世絵師が自らの筆で直接絹や紙に描いた浮世絵をいう。まさに、世界で1点だけのものとなっている。
同展は9月18日まで。
(日下一彦)