太宰治が植え育てた木

東京都三鷹市は作家の太宰治が暮らした街で、JR三鷹駅近くには「太宰治文学サロン」があり、駅南口の三鷹市美術ギャラリーには、作家の家を再現した「太宰治展示室」もある。
だが、その家のあった場所は住宅街となり、表示は存在しない。それを教えてくれるのが、下連雀2丁目にある井心亭(せいしんてい)のサルスベリだ。
井心亭には茶室があり茶会などがよく開かれる。その庭に道に面してサルスベリの木がある。
この木こそ、向かい側にあった太宰家の庭から移植されたもの。太さは周囲約60㌢。この木がまだ細かった頃、太宰の死の1年前に書かれた「おさん」という小説に登場する。
妻のおさんがつぶやく。「さるすべりは、これは、一年おきに咲くものかしら」。その年は咲かなかったのだ。それを後ろで聞いていた夫がいう。「さうなんでせうね」。
つづけて妻はこう記す。「それが、夫と交わした最後の夫婦らしい親しい会話でございました」。
小説は妻の独白で構成され、夫には愛人がいて、夫の死が予告され、それを妻が批判するという奇妙な作品。
サルスベリの花は真夏に咲き誇り、咲き続ける。ピンクの円錐花序(えんすいかじょ)を見ると、これから咲こうとする莟(つぼみ)がたくさん控えている。花期が100日にも及ぶことから漢字では「百日紅」。
見ていると太宰の息遣いが伝わってきそうだ。
(増子耕一、写真も)






