トップ国内【フランス美術事情】「ヴュイヤールとジャポニスム」展/スイスの財団開催

【フランス美術事情】「ヴュイヤールとジャポニスム」展/スイスの財団開催

夏の文化イベント目白押し

「ラ・メゾン・ド・ルーセル・ア・ラ・モンターニュ」1900年エドゥアール・ヴュイヤール􀀀Fondation del’Hermitage

ナビ派の画家・ヴュイヤール
影響受けた日本の浮世絵並列

ヨーロッパの長いバカンス期間、各避暑地で芸術の癒やし力を発揮する美術展、演劇祭、コンサートなどの文化イベントが目白押しだ。フランス人のみならずヨーロッパ人にとって知られる避暑地、スイスのレマン湖を望むローザンヌのエルミタージュ財団が開催中の展覧会は、19世紀末のパリを席巻したジャポニスムがテーマだ。

同展が取り上げるエドゥアール・ヴュイヤール(1868~1940年)は、ナビ派のフランス人画家として知られる。ナビ派はヘブライ語の「予言者」を意味し、当時としては前衛的な芸術家集団で色彩重視のゴーギャンの影響を受けた。光を重視する印象派とは一線を画す若い野心的な芸術家であるモーリス・ドニやピエール・ボナールなどの間に広まった。

当時、ナビ派に共感した芸術家の多くは熱心なカトリック教徒だった。理由はナビが旧約聖書からとられていたからだ。科学とマルキシズムが芸術にも入り込んだ時代、ナビ派は自然と死後の世界に注目した中世の神秘主義を追求した20世紀のまれな芸術運動だった。

そのナビ派でドニやボナールなどと共に中心的存在だったヴュイヤールの風景画「ラ・メゾン・ド・ルーセル・ア・ラ・モンターニュ」(1900年)を所蔵するエルミタージュ財団は、彼の作品を集め、さらに浮世絵などの作品を並列させ、日本芸術の影響を探っている。

ヴュイヤールは浮世絵のコレクターで、19世紀末、フランスを中心に広がったジャポニスムがもたらしたエキゾチックな浮世絵作品に魅了された1人だ。「ヴュイヤールとジャポニスム」展(10月29日まで)は1890年代から第1次世界大戦にかけて制作されたヴュイヤールによる約100点の絵画と版画が、浮世絵、屏風(びょうぶ)絵、掛け軸など約50点と対比されている。

興味深いのはキリスト教と縁遠い日本の絵師たちが制作した作品にナビ派の画家たちが大きな影響を受けたことだ。日本美術は彼らの美的言語を深く育み、新しい形式、大胆な構図と枠組み、ナビ派が追求した自然と日常生活をモチーフとする運動に影響を与えた。穏やかな日常や自然を表現したナビ派の絵画は産業化と都市化が進む社会に貴重な癒やしをもたらした。

広重、北斎、国貞、国芳、歌麿といった木版画の巨匠たちの浮世絵から伝わる日本の風景、芸者、歌舞伎役者から過去にないインスピレーションを得た彼らは、西洋絵画のコードを更新した。

日本美術の影響が深く浸透したヴュイヤールの絵画、素描、リトグラフ作品は、異文化接触によって、西洋美術が重視してきた奥行き、立体感、光に、日本美術の輪郭線、大胆で予想外の構図、装飾性、平面性などの新しい視点が掛け合わされ、浮世絵をまねするのでなく、自然と人間存在の深さを表現するための芸術を生み出した。

ナビ派の画家たちは基本的にパリのボザール(美術学校)などで、西洋の伝統的写実の技法を学んだ上で日本美術と出会い、新たな絵画の在り方を精神世界を含めて創出した運動となった。その意味で、もっと評価されるべきと思われる。

(安部雅延)

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