トップオピニオン未来へ播かれた種 守り育てよう 安倍元首相一周忌

未来へ播かれた種 守り育てよう 安倍元首相一周忌

特別編集委員 藤橋 進

安倍晋三元首相が選挙遊説中に凶弾に倒れて1年が経過した。安倍氏亡き後、日本は急速に政治の空洞化が進んでいるように見える。安倍氏の存在の大きさをこういう形で知るのは残念なことである。

しかし安倍氏のレガシーは、多くの施策として生きており、何より国家と国民を思い戦い抜いた姿は人々の心に残っている。幕末の思想家、吉田松陰の遺書『留魂録』を安倍氏はしばしば引用したが、安倍氏の魂も人々の心の中に残っている。

1960年、日米安保改定を成し遂げた岸信介首相の孫である安倍氏は、左翼勢力にとっては憎むべき保守の象徴でもあった。戦う保守政治家として運命付けられていたともいえる。戦う相手は左翼ばかりではなかった。国益より省益を優先する官僚との戦いもあった。

安倍氏がこの国を守るために示した断固たる姿の記憶に、左翼、リベラル勢力は今も怯(おび)えている。没後も安倍氏への攻撃を止めないのはそのためだ。「死せる孔明生ける仲達を走らす」である。

実際、安倍氏は「21世紀の諸葛孔明」と言ってもいい戦略家であった。自由で開かれたインド太平洋構想やクアッド(日米豪印戦略対話)が日本の主導で、西側諸国の戦略的枠組みとなった。

また、西側の首脳たちに会うたびに、自由と民主主義の価値を守るため、覇権主義的中国の危険性を説き、目を開かせた。戦後、こんなスケールの大きな戦略外交を展開した首相はいない。

安倍昭恵夫人が、地元山口の県民葬でのあいさつで、安倍氏が「世界平和のために新しい秩序を、この日本が中心になって作っていかなくてはいけない」と語り、それは最後まで一貫していたと明かしている。もちろん、安倍氏自身言うように「外交はリアリズム」であり、時には妥協することもあった。しかし、国益、国の名誉など譲れない一線というものがはっきりとあった。それを支えたのは、確固たる国家観と歴史観であった。

安倍氏が国を思う気持ちには、少年のような純粋なものがあった。昭和29年生まれの安倍氏は、日本が高度成長の道を歩み、世界第2位の経済大国となっていく、希望と活力のあふれる時代に成長した。日本の可能性を信じ、この国を誇らしく思う気持ちが根底にあった。

米国からの圧力でLGBT法の成立を主導した政府・自民党は、魂のない形だけの保守政党に成り下がろうとしている。

日米同盟強化に力を注いだ安倍氏だが、オバマ米大統領との会談ではノーと言うべきものにははっきりノーと言った。保守の魂とは何かを、安倍氏の足跡からもう一度確認すべきである。

志半ばで世を去った安倍氏にとって何よりの無念は、生きている間に憲法改正を果たせなかったことだろう。

しかし、日本の未来のために安倍氏は、たくさんの種を播(ま)いた。その種が健全に育つか否かは、その遺志を継ぐ人々の奮闘いかんに懸かっている。

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