【連載】安倍元首相暗殺から1年 闇の中の真相・テロ容認の危機(4)慰霊碑、市民の声反映されず

事件の風化急ぐ奈良市

奈良市の整備計画で大きく様変わり した近鉄大和西大寺駅前の事件現 場、事件の記念物を設置する空間は十分ある(特別取材班撮影)

(1) 消えない単独犯への疑念

(2)教団への恨みを反安倍へ

(3)テロ容認風潮が生む模倣犯

安倍晋三元首相が銃撃された奈良市の近鉄大和西大寺駅前周辺は大規模に整備され、事件当時とは大きく様変わりしている。

仲川げん奈良市長は、昨年10月4日の臨時記者会見で、事件現場について「さまざまな議論を進めてきた」とした上で、「最終的に当初の計画通り歩道と車道を整備する」と発表。事件を記憶するための慰霊碑などは設置しないと発表した。

市は事件後、三つの検討案を作成。各分野の市民からヒアリングを行い、検討を重ねた結果、「銃撃現場を当初通り車道として整備し、周辺にも慰霊碑等は設置しない」案が採用されたとしている。

市がこれらの案について市民に行ったという聞き取りの内容がホームページに公開されている。それを見ると「特別なことはしないで、全体的にシンプルに交差点周辺を整備したほうがよい」(警察・防犯関係)「事件を思い出すようなものは建てない方がいい」(福祉施設関係)「事件のことは早く忘れた方がいい」(駅前広場整備事業協力者)などコメント全35件中、27件が慰霊碑などの設置に否定的な意見だ。肯定的意見は4件あったものの「歩道内に目印的なもの(それを訪ねてきた者が探せば見つかる程度)の設置は必要と思うが、車道内には安全上設けるべきではない」など控えめなものだ。

同ヒアリング実施対象者の選定過程や人数などについて市に問い合わせたところ、ホームページで公開されている情報以外は答えられないとの返答だった。

果たして奈良市民の大半が安倍氏の慰霊碑設置に本当に否定的なのだろうか。6月中旬、現場を訪ね、時折立ち止まって手を合わせる人々がいる中、道行く人々に聞き取りを行った。

週に3回ほど駅を利用するという40代男性は「毎回必ず手を合わせる。市として公式な慰霊祭を行わないのはおかしい」と憤る。またサンワシティ西大寺ビルの横に新たに設置された芝生エリアで子供とくつろぐ30代女性は、「本当に市民の意見を反映するなら投票で決めるべき」と不満を語った。福祉関係に従事する50代女性は「(市のヒアリングについて)でたらめかと思った。自分の周りの福祉関係者はみんな慰霊碑設置に賛成や」と強い調子で言い切る。

現場での聞き取り調査では8割以上(20人中17人)が慰霊碑設置に肯定的な立場を示した。市は広く市民の声を聞くのではなく、もともと設置しない方向で市の関係者を中心にヒアリングを行ったのではないかと疑われる。市は安倍氏の一周忌に当たる8日も特に追悼行事などは行わない。

東京駅には、原敬、浜口雄幸という二人の首相のテロ遭難現場の印とプレートが残されている。卑劣なテロを許さないという意思表示でもある。これと照らしても、奈良市が史上最長政権を担った元首相暗殺現場に何も残さないのは、極めて異常な措置である。安倍元首相亡き後も、そのレガシーを傷つけ、貶(おとし)めたい左翼勢力の声に押されて、事件の風化を急ぐかのように、後世に伝えるべき重大事件を人々の記憶から消し去ろうとしている。

結局、安倍氏の慰霊碑は自民党国会議員らがつくる有志の団体が、東大寺裏手の三笠霊苑内に建立。7月1日、除幕式が非公開で行われた。式典には高市早苗経済安全保障担当相ら、奈良ゆかりの議員らが出席。慰霊碑は「留魂碑」と名付けられ、安倍氏が生前に揮毫(きごう)した「不動心」の文字が刻まれている。

(世界日報特別取材班)

=おわり=

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