安倍晋三元首相が奈良県で選挙演説中に銃撃され死亡した事件から間もなく1年となる。史上最長政権を担った元首相の暗殺事件であるにもかかわらず、テロ事件としての本質は見失われ、テロ容認の風潮が日本を蝕(むしば)んでいる。単独犯への疑問は依然残り、事件の真相は闇に包まれている。(世界日報特別取材班)
安倍元首相の暗殺事件は、山上徹也被告(42)の単独犯行として起訴され、公判が来年には始まるとみられている。しかし、事件発生から単独犯を疑う声が絶えない。主にSNS上でだが、週刊文春も遅まきながら特集を連載、月刊Hanadaでジャーナリストの山口敬之氏が連載を開始した。
SNS上には根拠の確かでないものもあり玉石混交だが、陰謀論では片付けられない不審点が、あまりに多い。
奈良県警によると安倍氏の銃創は、右前頸部、前頸部、左上腕部にあった。弾は右前頸部と左上腕部から入り、前頸部の方は擦過傷と説明している。しかし、安倍氏の背後から近づいた山上被告が2回目の発砲を行った時、安倍氏は後ろを振り向くが、この角度から右前頸部に弾が当たるには物理的に無理がある。山上被告とは別の方向から弾が飛んできた可能性を否定できない。

事件発生後、当日現場で視聴者が撮影した動画がテレビやSNS上に公開された。高田純・札幌医科大学名誉教授はそれら動画を音響解析し、「ドゥワーン」という2回の発砲の間に「シュッピ」という高周波の別の音を検出した。その音は安倍氏が演説で使っていたマイクが拾っている音で、その高周波の音は、安倍氏のマイク近くで発生したものと考えられることから、右前頸部に致命弾が撃ち込まれた音との見方を示している。
そして山上被告の発砲については1発目も2発目も空砲で、「スナイパーから人々の注意を逸(そ)らすためのミスディレクションが狙いだった」と高田氏は言う。山上被告が発砲した前方90㍍の立体駐車場の壁に弾丸がめり込んでいるのが発見されたが、高田氏はこれも疑っている。
しかし何よりの疑問は、安倍氏の救命治療に当たった奈良県立医大付属病院の福島英賢教授の所見と警察の司法解剖の所見が大きく異なることだ。福島教授は、7月8日午後9時すぎに行った会見で、「右前頸部から入った弾が心臓および大血管を損傷し失血死したとみられる」と述べた。心臓の損傷についてさらに聞かれた福島教授は、「心臓の傷自体は大きいものがありました」「たぶん弾丸による心損傷、大きな穴ですね」と答えている。

これに対し、奈良県警は翌日行った会見で、「致命傷となったのは左上腕部から入った弾が左右鎖骨下動脈を損傷し失血死した」と、弾は反対側の左上腕部から入ったと説明。心臓の損傷には言及しなかった。
致命弾の飛んできた方向、心臓損傷の有無の所見の違いに納得のいかない青山繁晴参院議員が追及したことで、警察幹部は後になって、心臓に損傷があったことを認める。心臓の損傷を隠していた警察の態度は不可解というしかないが、その説明がまた、不可解なものであった。心臓マッサージなどを行った時、大きな圧力が心臓にかかり、破裂する「挫滅」が起きたというのである。
高田氏はこの説明に疑問を持ち、知り合いの複数の医者に質(ただ)した。返ってきた答えは「通常の心臓マッサージの場合、稀(まれ)に起きることがあるが、安倍さんは、既に大きな血管が破れ血が流れている状態だった。そういう状態で心臓に圧力をかけても、挫滅は起こらない」だった。