瑞々しい感性に出会える展覧会 石川県輪島市の県輪島漆芸美術館

「生新の時2023―漆芸の未来を拓く―」

大学や大学院で卒業・修了した学生の作品

柴田紗英さんの「膨らむ」。パンを漆で固め、その抗菌性を試した(同下) 
柴田紗英さんの「膨らむ」。パンを漆で固め、その抗菌性を試した(同下) 

魚の生命観、傷まぬパンを表現

大学や大学院で漆工芸を学び、今春卒業および修了した学生たちが制作した漆芸作品を展示する「生新(せいしん)の時2023―漆芸の未来を拓く―」が、石川県輪島市の県輪島漆芸美術館で開かれている。今回で15回を数え、漆芸を専門に学んだ令和4年度の卒業生・修了生の作品36点を展示している。ユニークな発想の下、瑞々(みずみず)しい感性にあふれた魅力的な作品の数々に出会える展覧会だ。

(日下一彦)

今回は金沢美術工芸大学、金沢学院大学、富山大学、東京藝術大学、京都市立芸術大学、東北芸術工科大学、広島市立大学、沖縄県立芸術大学の8大学で、漆芸を専門に学んだ令和4年度の卒業生と大学院修了生の作品が展示されている。

毎回、若い世代の個性豊かで瑞々しい感性の作品が、漆芸の世界に新風を吹き込んでいると好評だ。紙面では、同展を担当した学芸員の福江里美さんに選(え)りすぐりの4点を紹介してもらった。

まず、金沢美術工芸大学大学院(美術工芸研究科修士課程)を修了した邱嘉文さんの「変容するかたちⅠ」(高さ35センチ、幅55センチ、奥行き65センチ)は、東南アジアに生息する熱帯魚で、鑑賞用として人気の高いベタをモチーフに制作している。

背びれ、尾びれがとても優雅で、特に求愛行動でメスを引き付けたり、競争相手を威嚇したりする際は体を大きく見せるフレアリングの行動を取る。同作品はその様子を乾漆技法で表現した。乾漆は麻布を素材の上に張り重ねていく技法で、比較的自由な造形が可能だ。

作品は赤一色だが、光の当たり具合や見る角度によって陰影が付き、赤の濃さが微妙に変化する。「その姿に人間の複雑な感情をリンクさせて表現したいと考えたのではないでしょうか」と福江さんは解説している。

富山大学芸術文化学部を卒業した柴田紗英さんの「膨らむ」(高さ90センチ、幅120センチ、厚さ10センチ)は、漆の抗菌作用に興味を持ち、パンに漆を塗ったらどうなるか、との斬新な発想から生まれた。在学中はコロナ禍で、学生生活にいろいろな制約を受け、こんな発想が生まれたのかもしれない。

郎嘉文さんの「変容するかたち I」。熱帯魚のべタをモチーフにしている (写真右 )
郎嘉文さんの「変容するかたち I」。熱帯魚のべタをモチーフにしている (写真右 )

市販のパンに飽き足らず、自身でこねて焼いたパンにも漆を塗っている。パンと漆の不思議な取り合わせに、「漆がパンにしみ込み硬化すると、腐ったり傷んだりせず、パンの形をそのまま保つことができます。何回も試行錯誤しながら仕上げたのでしょうね。とてもロマンを感じさせる作品です」(同)。

一方、東北芸術工科大学芸術学部を卒業した大谷なつきさんの「漂うゆらぎ 赤(かがや)くゆらめき」(高さ25~28センチ、幅11~16センチ、厚さ2センチ)は螺鈿(らでん)の技法を駆使し、光の当たり方や見る角度で貝独特の輝きが揺らいで見えることに注目した作品だ。

展示は12枚を2段に並べ、上の6枚で煙の揺らめきを、下の6枚で炎を表現している。貝殻の光る部分とあまり光らない部分を巧みに使い分け、立ち上る煙のはかなさやパチパチと燃え盛る炎を描き出している。大谷さんは図録の中で、「不規則で個性的な煙と炎のゆらぎ、ゆらめきは、人が迷い、大切なモノに巡り合い熱く燃え盛る様子と似ている」と制作意図を説明している。

広島市立大学芸術学部を卒業した中澤萌絵さんの「来幸十二支図」(高さ254・6センチ、幅254・6センチ、厚さ6センチ)は、文字通り、新年に飾る干支(えと)飾りから発想を得た作品で、濃紺を背景に描かれた12匹の生き物たちが、巧みな筆遣いによって毛並みや体表の質感が表現されている。色漆を塗り重ね、蒔絵(まきえ)技法との併用で制作された瞳や装身具など随所に施された螺鈿がキラリと光り、アクセントになっている。中澤さんは「見てくださった方のお守りになるように制作しました。みなさんに幸せが訪れますように!」との思いを込めた。

福江さんは「この他にも、豊かな感性に満ちた作品が揃(そろ)っています。ぜひ会場でご覧ください」と話している。同展は7月9日(日)まで、入館料は630円。問い合わせ=(電)0768(22)9788。

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