トップ国内【広島サミットの岐路 核なき世界は実現するか】(下)首脳らに被爆実相伝え成果

【広島サミットの岐路 核なき世界は実現するか】(下)首脳らに被爆実相伝え成果

平和記念公園で記者会見をする岸田文雄首相 =21日午後、広島市中区(竹澤安李紗撮影)

「1945年の夏、広島は原爆によって破壊された。平和記念公園が位置するこの場所も一瞬で焦土と化した」

先進7カ国首脳会議(G7サミット)を終え、議長国として平和記念公園の慰霊碑前で総括記者会見をした岸田文雄首相は、夏日で蜃気楼(しんきろう)が見える中、地元「広島」で開催した思いから語り始めた。

特にロシアによるウクライナ侵略を挙げ、「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を堅持し、平和と繁栄を守り抜く決意を世界に発信する上で平和の誓いを象徴する広島の地ほどふさわしい場所はない」と強調した。

今回のG7サミットの成果の一つは、核保有国の米英仏を含むG7首脳が広島市の平和記念資料館(原爆資料館)を初めてそろって訪問し、核軍縮・不拡散に焦点を当てた初の個別声明「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」を発出したことだ。

2016年のオバマ氏以来、米国の現職大統領として2人目の訪問を果たしたバイデン大統領が、「世界から核兵器を最終的に、そして、永久になくせる日に向けて、共に進んでいこう」と決意を芳名録に記帳。サミットに参加した全首脳による資料館訪問と記帳は、全世界が注目した歴史的瞬間であり、高く評価できる。

また、広島を電撃訪問したウクライナのゼレンスキー大統領や韓国の尹錫悦大統領をはじめ、ロシアと一定の関係を持ち続けるインドのモディ首相やブラジルのルラ大統領ら、八つの招待国全ての首脳らが資料館を訪問したことも重要な意味がある。

広島県の湯崎英彦知事は21日、資料館を訪問した各国首脳らについて、「被爆の実相に触れたことは非常に大きな意味があった。それぞれの心の中に生じた変化は今後の考え方や取り組みに大きなインパクトを与えていく」と指摘した。

14歳で被爆し、10年以上被爆証言を続ける山本定男さん(91)は20日、「(資料館で見て感じたものを)自分の国でしっかり広めてほしい。特に、ロシアや中国に伝えてほしい」と力強い声で訴えた。

一方で、被爆者団体からは、核廃絶に向けた実効性のある議論がなかったとして、不満を示す声も相次いだ。22日付の地元紙「中国新聞」は1面で、「G7首脳が『広島ビジョン』の名で出した核軍縮の文書は何の新味もなく、核抑止に固執する中身だった」と批判した。

それでも、今回のG7サミットで資料館が果たした役割は大きい。悲惨な被害に再びスポットが当たることになったのは、これまでひたむきに被爆体験の証言をし、70年以上にわたり、核兵器廃絶を訴える声を発信し続けてきた被爆者たちがいたからだ。厚生労働省によれば、被爆者健康手帳を持つ人は2021年度で全国に11万8935人、平均年齢は84・53歳と、高齢化が進み、後継者不足で解散する団体も出てきている。

被爆者らの焦りが募る中、今回こうして広島が注目を浴びたのは悲願が叶(かな)ったともいえる。被爆者本人の肉声を各国首脳に〝直接〟届けることができたことは、彼らにとって大きな成果だ。

ロシアがウクライナを侵略し、核兵器使用をも辞さない情勢の中、原爆資料館を訪問した各国首脳らの考えに変化が起き、行動に変化が起きるさまを注視する必要がある。人類初の核兵器使用を記録したモノクロで残る写真資料がカラーとなる日が来ないよう、参加国だけでなくロシアや中国など世界各国の不断の努力が求められる。

(竹澤安李紗)

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