【連載】「ジェンダーレストイレ」の波紋(下) 「多様性の尊重」で防犯軽視か 渋谷区、女性専用ない施設増やす

渋谷区の幡ケ谷公衆トイレ。正面左側に共用トイレ、右側に男性の小便用がある。

「ジェンダーレストイレ」の波紋(上) 女性反発「性犯罪に遭う」  LGBT法案への不安が高まる

東京・新宿の東急歌舞伎町タワーより先に、「ジェンダーレストイレ」の波紋を巻き起こしたのは、渋谷区の公衆トイレプロジェクトだ。

今年2月、同区幡ヶ谷の笹塚出張所前交差点近くに建て替えられた幡ヶ谷公衆トイレ。あるのは、誰でも利用できる「共用トイレ」の個室二つと男性用の小便器二つだけ。女性専用はない。また、トイレ全体が交差点側に大きく開いた形になっており、共用トイレへの出入りが通行人に見える。これは防犯のためとも受け取れるが、出入りを男性に見られることを嫌う女性もいるだろうから、女性専用を使いたい女性は不便になる。

同区は2015年に全国の自治体に先駆け「男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」、いわゆるLGBT条例を施行した。それから3年後、「トイレ環境整備基本方針」をまとめた。そして「多様性を受け入れるトイレ環境づくり」などを掲げて、日本財団との共同プロジェクト「THE TOKYO TOILET」で17カ所の公衆トイレの整備を進めている。幡ヶ谷公衆トイレもその一つだ。

17カ所のうち、女性専用を設けない施設は他にもある。しかし、幡ヶ谷のケースでは、区議会議員が「渋谷区としては女性トイレを無くす方向性なのですが、私はやはり女性用トイレは残すべきだと思います」とツイート。これがきっかけとなって、ジェンダーレストイレ論争に火が付いた。

「性犯罪の被害者は、圧倒的に女性なのに渋谷区は女性の安全を軽視する区になってしまった」「多目的トイレ、男子トイレ、女子トイレこの3種は混ぜてはいけないとトランスの私でも思う」など、ツイッターは区の方針を疑問視する声で炎上した。

 これに対し、区公園課は「区では今後のトイレ整備について女性トイレをなくす方向性など全くない」とホームページで弁明。「男性用の小便器トイレを別途用意することで、より多くの人が共用トイレをさらに快適に利用できると考えている」と、女性専用をなくした理由を説明した。

だが、「女性スペースを守る会」共同代表の森谷みのりさんはLGBT理解増進法案への反対記者会見の席上、渋谷のトイレ整備について「男性の小便用トイレはあるのに、女性専用トイレがなくされて、多目的・男女兼用トイレになった。女子トイレは、祖母、母の世代の女性たちがやっと勝ち取ってきたものだ」と反発した。

ジェンダーレストイレを設置する動きは東京以外にも広がっている。昨年7月、「性の多様性を尊重した社会づくり条例」を施行した埼玉県。同条例は「男女という二つの枠組みではなく連続的かつ多様である性の在り方の尊重」を掲げている。

今年4月1日、県は「県が実施する事務事業における性の多様性への合理的な配慮に関する指針について」を公表。その「施設・設備の整備」の項目で、「可能な限り性別に関わらず利用できるエリア(トイレ、更衣室など)を設け」、また「新設・改修の予定のあるもの」でも同様の方針だとした。

これに対しても、ネット上では「女性トイレを廃止する埼玉県」など批判意見が続出。このため、県は「本指針について、一部ネット上において誤った情報が流布している」として、「女性トイレを廃止・減少させ、オールジェンダートイレに置き換えることを県内の施設に義務づけることはない。県有施設以外のトイレに関するものではなく、県有施設においても、今ある女性トイレを廃止したり、減らしたりすることを前提とするものではない」と対応に追われた。

だが、この指針が実施されれば、女性専用が減ることになり、女性は不便を被ることになる。そればかりか、〝オールジェンダー更衣室〟も設けるという。どんな更衣室ができるのか、県民が不安を持つのは当然だろう。

渋谷区、埼玉県に共通するのは「多様性の尊重」を掲げていること。ジェンダーレストイレは、その理念に基づく施策を「性」の分野にも推し進める時に起きる「安全」との衝突を、分かりやすい形で顕在化させたものとみることができる。

危険にさらされるのは女性と子供という弱い立場の住民。前出した森谷さんは「防犯の大前提は女子トイレには男性が入らないというルール」とした上で、「(渋谷区は)女性専用トイレを造ると、トランス女性が使用できるかどうかの議論になるので、なくしたのだと思うが、女児や女性を守るという防犯の観点を忘れられては困る」と訴えた。

(森田清策)

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