【連載】G7広島サミットの焦点(5)被爆地から核軍縮発信 問われる岸田首相の指導力

原爆慰霊碑から原爆ドームを望む=広島県広島市の平和記念公園(豊田 剛撮影)

「核兵器のない世界」の実現をライフワークにしてきた岸田文雄首相の広島サミット開催への思いは前回日本が議長国だった2016年にさかのぼる。当時外相として、G7外相会合の広島開催と、オバマ米大統領の広島訪問を実現させた。サミットの広島開催またはG7全首脳による被爆地広島訪問は残された課題であり、7年ぶりに念願がかなった形だ。

被爆者らの「世界に被爆の実相を知ってもらいたい」との声を踏まえ、岸田氏は犠牲者の遺品などが展示された広島平和記念資料館にG7や招待国の首脳らを案内する方向だ。G7首脳と被爆者の面会も調整している。これらはウクライナに対する戦術核兵器の使用をちらつかせて世界を恫喝(どうかつ)するロシアに対する強い警告のメッセージになる。

ただ、核の脅威は核による抑止が欠かせないのが現実。「核なき世界」「核廃絶」といったスローガンが現実離れしていることは岸田氏も理解している。昨年8月、日本の首相として初めて核拡散防止条約(NPT)再検討会議に出席した岸田氏は核軍縮に向けた行動計画「ヒロシマ・アクション・プラン」を提示した。

NPT体制の維持・強化を前提として、①核兵器不使用の継続②透明性の向上③核兵器数の減少傾向の維持④核兵器の不拡散及び原子力の平和的利用⑤各国指導者等による被爆地訪問の促進――の5項目を掲げた。特に透明性の向上に関しては、核保有国に対し核兵器の製造に必要なプルトニウムなど核兵器用核分裂性物質(FM)の生産状況に関する情報開示を求めた。

FMの生産を巡ってはNPTが核兵器保有国と定める米露英仏中5カ国のうち中国以外の4カ国が一時停止(モラトリアム)を宣言しているが、中国は日本の行動計画に反発した。

米国防総省の昨年11月発表の中国の軍事動向に関する年次報告書は、中国の核弾頭が35年までに現在の4倍、1500発に増えると予測。北朝鮮も核・ミサイル開発に拍車を掛けており、核軍拡の流れは止まりそうにない。

日本は戦後、核兵器を「持たず、つくらず、持ち込ませず」の非核三原則を国是にした。しかし、実質的に米国の核の傘に守られているジレンマを抱えている。21年発効の核兵器禁止条約にも加盟せず、22年6月の締約国会議へのオブザーバー参加も見送った。

G7加盟国は、核保有国の米英仏と「核の傘」で守られている非保有国の日独伊加。核保有国がどこまで核軍縮の議論に踏み込めるかが焦点となる。

4月、長野・軽井沢で開催されたG7外相会合では、共同声明とは別に、「核軍縮及び不拡散に関するG7外相広島宣言」を採択した。広島サミットでも、首脳宣言とは別に、核軍縮・不拡散に特化した成果文書を出す方向だ。

唯一の被爆国として「核なき世界」の実現を目指す先頭に立つのは当然の役割だが、同時に世界で拡大する核兵器の脅威にどう向き合うか。核廃絶という理想と核抑止の現実のバランスを、どう文面に反映させていくか、世界の注目の中、岸田氏のリーダーシップが試される。

(政治部・豊田 剛)

=終わり=

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