岸田文雄首相が議長を務める先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)が19~21日に広島市で開かれる。首相は被爆地から「核兵器なき世界」の発信を目指す一方、ウクライナを侵略するロシアは核兵器の使用を示唆するなど安全保障環境は悪化し、世界経済のリスクも高まる中、どう結束して対処するか焦点になる。
被爆地広島でのサミットに、日本は岸田首相のライフワーク「核なき世界」にのっとった首脳宣言を検討している。折しも欧州はウクライナやロシアと国境を接し、ウクライナ侵略を開始したプーチン大統領の核兵器使用をチラつかせる恫喝(どうかつ)的な発言に神経をとがらせている。
基本的にウクライナ危機によって、東西冷戦終結以降の世界の枠組みが「根底から塗り替えられた」(ストルテンベルグ北大西洋条約機構〈NATO〉事務総長)との認識を持つ欧州は、事態を重大かつ深刻に受け止めている。
このため昨年来、欧州諸国のNATO加盟国が集団的自衛権の原則に基づいて防衛費を増額中だ。特にロシアからの核攻撃を含むミサイル攻撃に対する防空システム強化を急いでいる。
昨年10月にはNATO加盟14カ国とフィンランドが防空体制を強化するため、「欧州スカイシールド・イニシアチブ」と名付けられたプロジェクトを立ち上げ、ミサイルや関連兵器の共同調達で合意した。
ストルテンベルグ氏はNATO理事会で、ロシアが核兵器をウクライナで使用すれば「非常に重要な一線を越えることになる」と述べ、「深刻な結果をもたらす」との認識を示した。
また欧州では、ロシアと国境を接するフィンランドのNATO加盟、続いてスウェーデンも加盟手続き中であり、防衛強化に動いている。さらに、ウクライナへの戦車や弾薬など軍事支援の強化も継続している。
一方、ロシアへのエネルギー依存決別など厳しい経済制裁を発動しており、欧州がロシアに間接的に軍事資金を提供するエネルギーなど貿易分野の仕組みを遮断する意思も強く示した。だが、英国および欧州連合(EU)は、経済制裁に幾つもの抜け道がある現実を認識しており、G7では制裁効果を挙げるための国際的取り組みに期待感もある。
さらに紛争の外交解決を目指す欧州としては、防衛力増強や経済制裁強化を進めながらも、ロシアを挑発し過ぎることでロシアが暴発し、核戦争に発展することも強く懸念している。そのための西側の結束確認はG7の重要テーマだ。
ただ、欧州諸国はウクライナ危機の準当事国であり、米国追随だけでなく、独自の対露外交政策を打ち出したいところで、ロシアとの対話、さらには協力にも踏み込んだ外交を展開したいところだ。
その意味で、フランスなどは、マクロン大統領が直接北京に乗り込み、中国の習近平国家主席から核兵器使用を否定する言質を取り、中国がロシアに直接的軍事支援を行わないよう説得し、和平協力を要請した。欧州が核戦争という最悪の事態に巻き込まれることを回避するため、極めて多角的にウクライナ危機に対処している。
しかし、欧州内も一枚岩ではない。武器供与を巡りポーランドやバルト3国など露強硬派と、いまだにロシアから天然ガスを買い続けるハンガリーなど外交優先の西欧諸国の温度差が露呈し、欧州全体として世論が分かれている。
欧州防衛の緊張が高まる中、世界で唯一の被爆国日本の核廃絶の主張に理解はあるものの、核抑止を取り下げる空気は欧州にはないのが現実だ。
(パリ・安倍雅信)