考古学・美術研究の発展に大きく寄与
特別展「縄文・小川忠博写真展」が秋田県立近代美術館(横手市)で開かれている。日本の考古学・美術研究の発展に大きく寄与した作品を集めたもので、縄文写真展実行委員会(同館ほか)の主催。
全国で発掘された縄文時代や石器時代の遺物は膨大な量に上るが、1942年東京都生まれの小川氏は約40年前から、極めて貴重で特徴のある土器や土偶(どぐう)、石器を写真に収めてきた。同展では小川氏が厳選した約220点の写真と、秋田県内の有名な土偶の実物など約10点を特別展示している。文様の多彩さに驚かされる。
中でも、土器の周り360度の文様を一画面に収めた「展開写真」の数々は小川氏の代表作。氏はカメラマンとして活動する中で土偶や火焔(かえん)型土器などに出合い、日本各地のべ2000カ所以上で3万枚を撮った。同様の写真展を2回開催したが、今回はそれらを上回るスケール。
「展開写真」とは、競輪競馬のゴール判定にも使われる手法で、細いスリットを通し連続した1枚の写真が撮れる。それを応用し、土器を一定の速度で回転させることで表面の文様を1枚の写真に収めた。
発掘調査を行う研究者は、土器などを正面と背面、側面から捉えた写真や図で報告書を作るため、「展開写真」は新たな気付きにつながる。氏は写真集『縄文美術館』『土偶美術館』などの書籍で縄文美の魅力を伝えてきた。
特別展は大きく五つのコーナーに分かれ、縄文の家財道具、生活、土偶、秋田、そして15枚の「展開写真」の部屋で締めくくる。高さ3㍍、幅約9㍍にも及ぶ巨大な渦巻文土器(山梨県桂野遺跡、縄文中期)の写真は高さ59㌢の土器を撮影したもの。水の渦巻きのように見える。
展覧会を見渡すと、弓を持った人物、動物の土製品、イノシシやシカの絵、人面付壺(つぼ)型土器、耳飾り、石器や石棒のほか、国宝「土偶」の「縄文のビーナス」(棚畑遺跡、高さ27㌢)や「仮面の女神」(中ッ原遺跡、同34㌢)=いずれも長野県茅野(ちの)市=と1枚1枚を思わずじっと見つめてしまう魅力がある。
秋田県関係では世界文化遺産の伊勢堂岱(いせどうたい)遺跡と大湯(おおゆ)環状列石(約4000~3500年前)を含めた約40点を紹介。1から6までの数の発明とも考えられる大湯の土板(どばん)(高さ5・8㌢)や大仙市・星宮(ほしのみや)遺跡の遮光器土偶(高さ約24㌢)も含まれる。
映像「縄文の跡」(約6分)を上映。同展は6月30日まで。入場料は一般千円。
(伊藤志郎、写真も)