「最終的に立憲民主党県連の代表である私が候補者として出なければならないと決意した。あと2年3カ月任期が残っていたが」
自然豊かな国東半島南部の安岐町公民館での個人演説会で、立民公認の元参院議員、吉田忠智は、気迫を込めながらも複雑な表情を見せた。参院補選に勝つため、参院議員を辞して立候補したのだ。
社民党代表も務めた吉田は2019年参院選で社民比例で2回目の当選を果たしたが、20年に離党し立民に合流した。自治労出身で県議(3回当選)時代からの選挙基盤は不変だ。普段は人影も少ない田畑に囲まれた公民館ホールは組織動員とみられる多くの人で埋まった。
19年の参院選で無所属の野党統一候補として当選した安達澄が先の大分県知事選に出馬したことに伴う補選。野党として負けられない戦いだ。
岸田政権に打撃を与え、党の議席を増やしたい立民が白羽の矢を立てた吉田は、野党候補の一本化を条件に参院議員を辞しての出馬を決断。これを共産と社民が支持、国民の県連が支援して何とか共闘態勢をつくり上げた。とりわけ、5万~6万の票を持つと言われる共産の加勢は大きい。
鉢巻き姿の吉田は、「補選はこれからの日本の政治にとって極めて大きな意味を持つ。今の岸田政権の政治姿勢そのものを問わなければならない」と強調。会場には民主党代表、衆院副議長などを歴任した立民衆院議員の海江田万里、党政調会長の長妻昭が駆け付けた。登壇した海江田らは吉田と共に握りこぶしのガッツポーズで気勢を上げた。代表の泉健太も10日に現地入りした。
ただ、先の知事選で安達は約7万票差で自民推薦候補に敗れた。吉田にいい流れではない。だが、「安達は次の衆院選のために知事選に出た。衆院大分3区の別府市の方だけ力を入れた」(地元政界関係者)との見方もある。
「子供は日本の宝物。その宝を社会全体で育てていく仕組みをつくりたい」
12日、別府市の個人演説会で自民公認の新人、白坂亜紀は、女性として子育てをしながら働き、事業を拡張してきた体験を持つ強みを生かし、岸田政権の「異次元の少子化対策は素晴らしい」と絶賛した。陣営も、衆院議員の稲田朋美、参院議員の橋本聖子、元首相夫人・安倍昭恵ら女性の応援で婦人票の取り込みに力を入れている。
ただ、公募による候補決定から約1カ月しか経(た)っておらず、知名度は大きく劣る。白坂は銀座の辣腕(らつわん)クラブ経営者として東京で活動し、人材育成などを情報発信してきたが、大分県では出身地の竹田市を含めほぼ無名。地元特産かぼすを宣伝する「豊の国かぼす特命大使」のイメージが関係者に知られていた程度だ。12日の個人演説会では「食べ物と農業の大事さ、第1次産業がどれだけ地域に大事かを発信してきた」と地元への貢献を訴えた。
「あとは知名度を浸透させるだけ。今のところ支持率は6対4」。ある保守系の政界関係者は先行する吉田を白坂が追い上げているとの感触を語った。首相は16日に現地入りする。投票までフル回転で逆転を期している。(敬称略)
(衆参補選取材班)