5期目を目指す自民党系の現職・荒井正吾に自民県連の推薦を受けた元官僚の新人・平木省が挑む中、元生駒市長の山下真が維新初の知事の座を狙う激しい選挙戦が展開されている。
告示日の23日午前。平木は元首相の安倍晋三が暗殺された現場である奈良市の大和西大寺駅前で第一声を上げた。「若さで県政を引っ張っていきたい。3期12年までとする多選禁止条例を作る」と述べ、長期県政の荒井を批判。さらに、政策ビラでは「(維新が進める)身を切る改革は奈良では身を滅ぼす」と山下を牽制(けんせい)する。
党本部の公認は得られていないが、自民の国会議員や県議、首長らが並び、“正式な”自民系候補としてアピールした。選挙戦中盤以降、「国会議員が多く駆け付け、演説先には多くの有権者が集まっており、上り調子だ」(選対幹部)。
平木を担いだのは奈良の自民県連の会長を務める経済安全保障担当相の高市早苗。総務省の放送法文書問題で野党から国会で徹底追及された影響で、出陣式に姿はなかった。ただ、文書問題が落ち着いた終盤も現地入りしておらず、関係者はやきもきする。ライバル陣営は「奈良入りすれば文書問題が蒸し返される可能性がある。荒井の出馬を止められず、地元に戻れないのが本音ではないか」と推察する。
5期目を目指す荒井は過去4回の選挙で自民の支援を受けたが、今回は一部の国会議員や県議らの個人的な支持にとどまる。県連からは、多選批判と78歳という高齢がネックとなり、退陣を求める声が日増しに上がった。そんな中、昨年末、選対委員長の森山裕、元幹事長の二階俊博と都内で面会し、両氏の後押しを受けたとして立候補に踏み切った。
奈良市の事務所前で行った出陣式で荒井は「リニア中央新幹線の奈良新駅設置を確定させる使命がある。奈良の未来を懸けて全力で頑張る」と意気盛んに述べた。
地元紙などの調査によると、自民党支持層では平木の半分程度しか固め切れておらず、苦戦を強いられている。陣営幹部は、「平木側の切り崩しが露骨だ」と焦りを隠せない。自民国会議員らからは「名誉ある撤退」を求める声が出ている。
自民分裂は山下にとって有利な展開。維新は、大阪以外の首長選で公認候補が勝ったことがなく、保守王国を切り崩す好機と捉え、続々と幹部を送り込む。選挙初日には、代表の馬場伸幸、顧問の松井一郎、幹事長の藤田文武が応援演説した。近鉄奈良駅前の演説で馬場は「大阪でやってきた(行政改革の)実績を奈良でもやらせていただきたい」と主張。山下は、「官僚出身の知事を複数の政党が支える政治を改めよう」と呼び掛けた。
山下は2015年知事選に無所属で出馬して以来、2期ぶりの知事選出馬。当時は約22万7000票を獲得したが、荒井に約5万5000票差で敗れた。陣営は「漁夫の利でもいい。今回は自民の分裂選挙。当選ラインが下がり、勝算はある」と期待する。
ただ、野党の足並みはそろっていない。立憲民主は関西では維新と対立関係にあり、同県連は平木を支持。国民民主県連は荒井を推薦する。共産は唯一の革新系候補で元大和郡山市議の尾口五三を推薦しているが、支持が広がっていない。(敬称略)
(統一地方選取材班)
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